第7章 苦い依頼

｢よお｣

満更他人行儀でもなく声をかけられて牡蠣殻は詰まった。

顔見知り？･･･マズい。全く思い出せない。

男ーカンクロウは、牡蠣殻の顔色を見てまた苦笑した。

｢いンだよ、俺だってわかんなかったからな、アンタの事。一回チラッと見合ったきりで話もしてねェんだから当たり前じゃん？｣

鷹揚に言って、両の手を腰に当てる。

｢で？また笑うかよ？俺の顔見て？｣

｢･･･笑う？｣

牡蠣殻は眉をひそめてカンクロウを見返した。

カンクロウも牡蠣殻をまた見返して、上体を反らせた。

｢人ン事笑っといて気持ちよく忘れてんじゃねえじゃん？俺はアンタの命の恩人じゃん？｣

････結論を先走らせる話し方。････苦手ですよ。･･･ますますマズい。興味が持てない････

牡蠣殻は辟易して曖昧な表情を浮かべた。興味が持てない事には返しようがない。相手が命の恩人だとしてもだ。

｢この人はお前に血液を提供して下さったのだ、牡蠣殻｣

深水が言い含めるように補足した。傍らで杏可也が頷く。

｢B同士なのよ、二人は。仲が良いのね、ふふ｣

｢･･････｣

｢･･････｣

カンクロウも牡蠣殻も、"何かしら突っ込みたいんだけれどもこのメンバーじゃ切り口が見つけ辛いわ。ちょっとここは呑み込んどく？"という顔で杏可也を見、何か言いかけて口を閉じ、黙って顔を正面に戻した。

正面に顔を戻せば、自然お互い見合う事になる。

カンクロウは片口を上げて苦笑し、牡蠣殻は可笑しくもなさそうに口許をヘラッと弛めた。

｢何じゃ、にやにやしおって。カンクロウ、矢っ張り気に入ったか？｣

チヨ婆の突っ込みにカンクロウは顔をしかめて首を振る。

｢すぐそっちにこじつけんじゃねえよ。勘弁してくれじゃん、なあ｣

同意を求められて牡蠣殻は困惑した。

そっちってどっち？無闇に振るのは止めて下さいよ。訳が解らない。

仕方なく薄く笑って見せはしたものの、もう居たたまれない。

フとカンクロウが腰を屈めて牡蠣殻の耳元に顔を寄せた。

｢恩に着るなじゃん。良いようにされんじゃねえぞ｣

｢･･････｣

牡蠣殻は無表情にカンクロウの横顔を見た。

牡蠣殻の視線にカンクロウは戸惑った様子を見せながらも目顔で確認を入れた。

是。

目線を外して僅かに頷く。