第7章 苦い依頼
「ほ、もう起き上がって話し出すとは、成る程しぶといの。頑丈なところがありよる」
白眉で目が伺えない老人が誰に言うともなくボソボソと言った。面白がっているような調子がある。
「回復力が高いんじゃな。コレも余録か?」
角都がチヨ婆と呼んだ老女が深水を顧みて尋ねた。
「恐らくは。しかし断言は出来ませぬ。その点に関しては残念ながら何ら医学的な結論が出せておりません故、何を言うにつけ推測の域を出る事が叶わない」
言葉を慎重に選んで答えながら、深水が牡蠣殻に鹿爪らしい渋い顔を向ける。
あー、怒ってらっしゃる。
無理もない。出来の悪い教え子がぼろぼろで運び込まれたのを見た日にはさぞ情けない思いをされた事でしょう・・・毎度華々しい不肖の弟子ぶりには悲鳴を上げたくなりますよ。ぎゃーッてなモンですって・・・どこかに穴でも開いてないものか・・・
牡蠣殻は額に手を当てて瞠目した。軽い目眩がある。
「・・・ここは何処ですか?」
敢えてぼんやりと標準を定めないでいた目をスイと細め周りをぐるりと見回した牡蠣殻は、医療用の器材の側に腕組みして立つ男に目を止めた。隈取りを化粧した変わった風貌の男だ。
男はどこかしら決まり悪そうにこちらを見ていたが、牡蠣殻と目が合うと怯んだように苦笑して片手を上げた。
・・・見覚えが・・・ある?いや、ない?・・・・ん?・・・あるか?・・・ない?我ながらどっち?頑張れ、働け、大脳皮質!
牡蠣殻は頭を下げて挨拶を返すのにかこつけて顔を隠し、どうにか男を思い出そうと頭の検索エンジンをフルにして歯を食い縛った。
「ここは砂の隠居部屋だがの。具合が悪いのか?そりゃいい訳なかろうが大丈夫か?実は死にかけてたりするのかの?もしかしてお前、物凄い強がりさんか?気分が悪いなら伏せておれ。無理して死なれても困るんでの」
白眉の老人が顔を覗き込んできた。牡蠣殻は表情を取り繕って、それを見返す。
「お陰様で死にそうという事はありません。お心遣い痛み入りますが、そもそも私のコレは病ではありませんから、過分なご配慮は無用です。お目配り有り難うございます」
「何じゃ、堅苦しいヤツじゃな。カンクロウ、お前のじゃんじゃんを少し分けてやったらどうじゃじゃん?」
チヨバアに言われて男が顔をしかめて近付いてきた。