第7章 苦い依頼
怠くて薄ら寒いのは血が抜けた後のいつもの感覚だ。
しかし今回は薄寒いどころではない。手先が凍えている。それでも目が覚めたという事は、恐らくはこれでマシにはなってはいるのだろう。
厚い布団でもかぶって寝ていたいが叶いそうもない。
医療用毛布を剥いで牡蠣殻は起き上がった。
寝台の傍らでこちらを注視する砂の隠居らしい老人二人と己の傷だらけの手を要領の得ない顔でぼんやりと眺めながら、思考を巡らせる。
深水と杏可也がいるのを目の端で確認して内心安堵の息を吐く。二人とも大事ない様子で先ずは一荷降りた。
隠居に囲われた二人がいるという事は、ここは恐らく砂の中枢、もしくはそれに近い場所だろう。
角都の姿はない。売られたか。まあ是非もない。目当ての二人の無事が確かめられたのだから、むしろ有り難い。それに見合うものが角都の懐に入ったのであれば良いがどうだろう。
人を財布扱いして憚らぬ変わった男だったが、面倒見のよさと心配りの細やかさには助けられた。売ったと言えば聞こえこそ悪いが、あの状況では一番の良策。機を見るに敏、無駄のない対処だ。
で?
さて、どうしよう。
角都と自分に蹴りとチョップをくれた老女を眺め、茫洋とした表情のまま牡蠣殻は思案する。
全く状況が掴めないですねえ・・・・
見るほどに一筋縄ではいかなさそうな老女の様子に牡蠣殻は顔には出さずげんなりした。
・・・やれやれ・・・・面倒な・・・
自分が剣呑な立場に落ち込んだ可能性については覚悟を決めるとして、深水と杏可也はどうすべきか。否やもなく囲われているなら相応に立ち回らなければならないし、自ら望んでこうしているならその事情を知りたい・・・
・・・いきなり三人にして下さいはないな・・・それはない。通る筈もありますまい・・・誰か何か言ってくれないものでしょうかね・・・何だって揃って黙りを決め込んで・・・・ん?いや、ああ、私が何か言えばいいのか。そういう流れですか?うん、そうか、そうですね。・・・しかしこういう場合どういった口火を切れば良いものか・・・・
「・・・あの、助けて頂きましたようで、有り難うございます。・・・お陰様で命拾いしたようです・・・取り合えず」
どこか抜けている。・・・こんなんだからフワフワだのフラフラだの言われるのだ・・・情けない。