第6章 ビンゴブッカー
イタチが息を吐いた。
「切り替えなければ置いて行くつもりだった。任務は風の国だ」
鬼鮫はしかし表情を変えない。
「関係ありませんね。アレを連れに行くのは私がそうすると決めたときです」
その言葉にイタチは笑った。
「ついでであろうがなかろうが、足掛かりが得られるのであればそれに越した事はない・・・手段を選ばないやり方も嫌いではないと言っていなかったか?」
「いつ決めるかも私が決める事。それが任務の最中であっても不思議はない。ご存念下さると有り難いですね」
「いいだろう。覚えておく」
涼やかな目をすがめて、イタチは面白そうに快活と言っていい程の表情を浮かべた。年相応の闊達さがチラと伺える。
鬼鮫は一瞬胸を突かれた様な思いがしてイタチを眺めた。
この賢しらな相方はまだ少年期を脱したばかりの年頃なのだ。
勿論、だからと言って同情したり哀れんだりする事はない。それはイタチへの侮辱になる。
「風の国で何の任務です。まともな内容なんでしょうね」
「賞金首を生け捕る。大首が風に現れたらしい」
「ほう。大首ねえ・・・」
「荒浜海士仁。知っているか?」
「・・・・さあ・・・?知りませんねえ・・・。本当に大首なんですか?イタチさんも私も心当たりないビンゴブックのアッパーレベルなんていますかねえ・・・」
首を捻る鬼鮫にイタチはもの問いたげな顔を向けた。
「ビンゴブックに現れたのはごく最近の事だからな。本当に知らないのか?」
「サッパリですね。一体どういう相手なんです?」
「・・・・・・」
今一度確かめるように鬼鮫の顔を眺め、イタチは顎元に手を添えた。
「そうか。知らないか・・・」
「さっきから何です。言いたい事があるならはっきり言って下さいよ。苛々しますねえ」
「ビンゴブックに載った件案は多国に渡る。いずれも医療絡みのものだ。土、雷、霧、そして今回生け捕りを依頼してきた磯・・・」
「・・・・磯?浮輪さんが?」
「そういう事になる。荒浜自身磯の者だ。磯絡みならお前に心当たりがあるかと思っていたが」
「ありませんよ。大体牡蠣殻さんからも詳しく磯の話などほとんど聞いた事が・・・・」
言いかけて鬼鮫は眉をひそめた。
一度だけ、同門、即ち同じく深水に師事した者が、破門になったと記された手紙を読んだ覚えがある。