第6章 ビンゴブッカー
「・・・ここにいたのか」
一頻り角都を襲った後広間を出た鬼鮫を探していたイタチは、アジトの外で相方のその姿を見つけた。
東向きの鬼鮫の部屋の窓の表には、山法師の木がある。今は紅葉して不思議にこっくりとした紅色の葉を繁らせているこの木に、鬼鮫が寄りかかっていた。
山法師に間近く歩み寄り、イタチは懐手で木の上を透かし見る。
「雪渡りはまだいるのか?」
「・・・・・・」
鳩の鳴き声がした。紅い葉の隙間に白い羽根が透けて見える。
砂へ向かい、牡蠣殻を見失った雪渡りを保護したのは他でもない鬼鮫だ。
同様に牡蠣殻を見失った鬼鮫は、餌を与えて放しても自分の元から去らない雪渡りをそれとなく世話していた。
「途方に暮れているのだな・・・まだ幼く寄る辺ない鳩だ、無理もない」
腕を組んで木によりかかったまま、鬼鮫は一言も発しない。
「砂には深水がいる。主治医の側にいる以上の安心はない。そう思ったからこそ角都も置いてきたのだろう」
「・・・・・・」
「角都のした事を許せとは言わない。しかし事態が思いがけない方向に転がったのは否めない。牡蠣殻が一人で木の葉を出なかったのを救いだと思うべきだ。・・・・根が関わっているとすれば間違いなくダンゾウ絡み、奴のする事は容赦ない」
鬼鮫から反応はない。
イタチは構わず続けた。
「砂に守られていると思えばある意味心丈夫だ」
「それは私が近付くのもままならない事を示している」
鬼鮫があらぬ方へ顔を向けて苦い声を出した。
「角都も腹立たしいが、今は何より自分に腹が立つ」
「物事は思い通りに運ばない方が多い」
物思いに耽りながらイタチが呟いた。
「自分の不甲斐なさに臍を噛むのは誰にでもある事。肝要なのは如何に次善の策をとるかだ」
雪渡りがまた鳴いた。
「大局と目的を見失わなければいずれ自然と道筋はつく。忸怩たる思いはあるだろうが、いつまでもそれに足を捕られているとまた取り零すぞ」
山法師がヒラヒラと落葉した。紅い紅葉がイタチの足元に落ちかかる。
「任務だ。すぐ出立する。それともここでそうして内省し続けるか?」
鬼鮫は顔を俯けて口角を上げた。
「・・・まさか。そこまで馬鹿じゃありませんよ」
腕をほどいて身を起こすと、先を歩くイタチを追って外套を翻す。
「・・・フ」