第6章 ビンゴブッカー
深水についてあれこれ手紙で聞いていたときの事だ。至極短い下りで、深水が破門を申し渡したのは後にも先にもその一人きり、他に詳しい説明はなかった。
・・・磯、そして医療絡み・・
思い耽りながら鬼鮫はイタチに目を向けた。
「浮輪さんからの依頼書は」
「風に着いたら見せよう」
「わかりました」
「何か心当たったか?」
「・・・・さあ、どうでしょう。何もかも曖昧なのでね・・・」
「依頼は磯影直々に貰った」
「浮輪さんが?来たんですか?ここに?」
「彼もまた巧者なのだな。口煩げな老人三人と現れて、さっさと要件を済ますと彼らが口を挟む前に連れて失せた。なかなか有能な男と見受けたが、会いたかったか?」
「本当についさっき現れた訳ですね。磯人らしい」
「牡蠣殻がいないと知っても驚かなかったところを見ると、委細承知なのだろう。お前に伝言がある。今聞くか?後にするか?」
「その聞き方からすると有り難くない言伝てなのでしょうね。今聞きましょう。不愉快な事はさっさと済ますに限る」
「この様ならば甲斐もないとだけ。どういう意味だ?」
「・・・・・・知りませんよ」
鬼鮫は渋い顔をして口を引き結んだ。波平の茫洋とした半眼が頭に浮かんで、思わず舌打ちが洩れる。
「何やらしがらみがあるようだな。・・・・このところのお前は面白い」
イタチが含み笑いを目に滲ませて、首を振った。
「血生臭くないしがらみとはな」
「イタチさん。牡蠣殻という女に絡む限り、血生臭くないしがらみはないんじゃないですかね」
「・・・そうか」
「ええ、色んな意味でね」
鬼鮫は鋭い歯並を剥き出して笑うと、確かめる様に懐を抑えた。
「これ以上ない程私らしいしがらみかもしれませんよ、あの女」
深水のところにいるならば、恐らく牡蠣殻は回復しているだろう。しかし砂の里は厄介だ。何を知り、何の為に深水、更には牡蠣殻を囲うのか。木の葉の根も絡んでいる可能性がある。いや、絡んでいる。散開の日、カブトの姿が見えなかったのもフに落ちた。
更に砂の里を擁する風の国にビンゴブッカーが現れたとあれば、胡乱だとしか言い様がない。もし鬼鮫の推測が的外れでなければ深水の身も案ぜられる。
音の動きも知れない。浮輪の思惑も見当が付かない。
・・・牡蠣殻。あの女は今どうしている?