第5章 輸血
カンクロウから抜かれた血は、深水の手によって輸血製剤に調製された。
・・・何でラボを使わねえんだ・・・?
カンクロウはぼんやりとそれを眺めながら思案していた。
チヨ婆は医療や製薬に暗くない。よってこの隠居部屋も器材は充実している。しかしだからといって、わざわざここで全ての作業をする必要はない筈だ。
そもそも何故既存の輸血製剤を使わないのか。
やっぱ何か隠してんだな・・・
「今のコレはの」
血を抜かれて横たわったカンクロウの傍らにいつの間にか佇んでいたエビゾウが、ポツリと言う。
エビゾウがそこにいる事に気付いていなかったカンクロウは、驚いてエビゾウを見た。
エビゾウは昏々と眠る女を見ている。
「道具だ」
「・・・道具?・・・どういう意味なんじゃん?」
「厄介じゃという事だの」
言いながらエビゾウはふゥんと、鼻から息を抜いた。
「うむ。厄介じゃ。面倒な事に手を出したの。姉者も耄碌したもんじゃ・・・」
「何じゃと、おいコラ。人の事言えた義理かお前は」
深水の作業に手を貸していたチヨ婆が、一段落ついた様子で二人の側へ来た。
「何なんだよ、一体。説明して欲しいじゃん?」
体を起こして腕のアルコール綿を剥ぎ取り、カンクロウはチヨ婆とエビゾウを見比べた。
「叔母さんが来てからこっち、モヤモヤしっ放しだ。我愛羅やテマリも苛ついてる。ここで何してんの?いい加減話して欲しいじゃん?」
「要らん事を知りたがると要らん事に関わる羽目になるぞ。止めておけ、カンクロウ」
素っ気なく言うチヨ婆に、意外にもエビゾウが反論した。
「コレが飛び込んで来た以上最早ワシらだけで何とかなるもんではなかろう、姉者よ。面倒事は自然に大きくなるもんじゃ。巻き込まれる前に教えてやった方がよくはないかの」
チヨ婆は渋い顔をして手を拭いた。輸血を始めた深水とそれを手伝う杏可也を見、溜め息を吐く。
「何度も話すのは面倒じゃ。あれが気付いたら我愛羅達と一緒に説明してやる。それまで待て」
「いつ気付く?」
「さしてかかるまいよ。脆弱じゃがしぶといのが取り柄じゃっつう話じゃからな」
「訳わからん。まぁ大丈夫だって事なんだな?わかった。待つよ。でも一つ聞きてえじゃん?」
頭を掻きながらカンクロウは女に目を走らせた。