第5章 輸血
「・・・・・・フ・・・・また怒って・・・」
掠れて弱った声が、笑いを含んで割り込んで来た。
ギクリと顧みると、ボロボロの女が膜のかかった目を開いて微かに笑っていた。
「・・・生きてんじゃん?」
カンクロウは思わず一歩前に出た
「・・・ハハ・・・残念・・です・・か・・・・いや・・・・・・良かったのかな・・」
木片や泥で汚れた手が何か探すように動く。
誰かと俺を間違ってる。
咄嗟にカンクロウはそう思った。
何だ、バカ、何で間違えてんだ?止めろよお前、人違いじゃん・・・
「牡蠣殻、わかるか?私だ。牡蠣殻?」
女の首筋に指をあてて脈を診ながら深水が不自然に細い声を出した。
ああ、バカ、そうじゃねえよ。違うって。
思わずもう一歩前に出たカンクロウを遮って、杏可也が女の手を握った。
アンタじゃねえじゃん?俺でもねえけど・・・
カンクロウは杏可也をどけて女の汚れた手をとった。冷たい。
「・・・・・・・」
女が眉根を寄せた。意思の色が目に宿る。
「・・・あれ・・・・?」
カンクロウを見て不思議そうな顔をする。
「・・・誰だ・・?・・・化粧?フ」
「・・・何笑ってんじゃん?」
「ハハ、・・・・何で化粧?・・ハ・・・アハハ・・・」
「笑うな、コラ」
「ごめ・・・ハハ、ごめん・・・ハハ」
周りで隠居や深水達が顔を見合わせている。カンクロウは苦笑した。
「・・・輸血しろじゃん?文句言ってやる、コイツ」