第5章 輸血
我愛羅の気持ちが解らなくもない。
カンクロウは杏可也の白い顔を見返しながら、内心決まり悪く思う。何しろあんな事を言ってしまった後だ。杏可也に申し訳ない気がした。
おっとりした叔母なのだ。いや、元叔母か。
「厄介をお掛けして申し訳ない」
女の脈をとっていた深水が立ち上がってカンクロウに頭を下げた。
杏可也の夫だ。磯の医師だと聞いた。がっしりした体に甲高い声、堅苦しい話し方をする真面目そうな男だ。
「重ねて斯様な御手数をおかけして汗顔の至り」
深水は額の汗を拭って青い顔に微笑を上らせた。
「貴方がカンクロウ殿か。改めまして、深水と申します」
「や、そういう挨拶とかいいから。殿とかマジ止め、俺そんなんじゃねえし。それより深水さんよ、コイツ、どうしたんじゃん?・・・死なねえよな?死にそうだけど」
「死ぬかもな!ぎゃははは、冗談じゃ」
「そんな捻りのない冗談はつまらんのう・・・」
「じゃ、もう死んでるかもな!ぎゃははは、これならどうじゃ」
「・・・どうかの、カンクロウ?」
「止め。俺に振んないで。何だかサッパリわかってないから」
「・・・言い辛いのですが」
気の毒そうな顔の深水にチラリと見られて、カンクロウは怯んだ。
「な、何だよ。言い辛いなら言わなくていんじゃん?いいから。そんな辛いなら言わなくていいから。こっちも聞き辛いじゃん?お互い辛いじゃん?そんなんで付き合い辛くなっても困るじゃん?な?・・・死んでんの?」
「貴方の血液型ですが、Bと聞き及びました。相違ありませんか?」
「は?」
すっ頓狂な声を上げたカンクロウは、すぐにぐっと口を引き結んで、傍らのボロ雑巾を見た。
「・・・もしかしてコイツB型?」
「バリバリのB型じゃ。確かお前もバッチリBじゃったよの?ナイスじゃ、カンクロウ。血をよこせ」
「わーおぅ。こんな要求初めてじゃーん、びっくりー!・・・何で俺が見ず知らずの女に色々食ったり呑んだりして育てた大事な血をやんなきゃなんない訳?冗談も休み休み言えじゃん」
「・・・」
「・・・何?何か変な事言った?俺」
「・・・」
「もしもし?」
「血をよこせ」
「何、ちょっと今のまさかの休み休み?勘弁してじゃん?しかもそれじゃ冗談になっちゃうじゃん。何やっちゃってんの?大丈夫なの、それで?ふざけんな」