第24章 追うか探すか
逃げ水を捕まえたと思った。
何度も牡蠣殻を取り零した手を握り締めて鬼鮫は黙々と歩いた。
矢張り気のせいだったのかも知れない。
いや、違う。気のせいではない。
ただその容れ物を逃がしただけだ。初めて触れたと思った牡蠣殻の深いところにある何かは、確かに鬼鮫の元に残っている筈だ。
ぼんやりと霞がかっていた牡蠣殻の諦観の瞳を思い出す。
そんなにも深水に依存していたのか。
底の知れない怒りが反って胸の内をシンとさせていた。
フと気配を感じて鬼鮫は無造作に左手側の木立に目を向けた。
「誰です?」
抑揚のない声で誰何すると、僅かな間をおいて木の葉の上忍が二人現れた。
「・・・・ほう?これは意外な」
一人は知っている。写輪眼のカカシだ。もう一人に見覚えはない。似たような中忍を砂で見たように思うが、親類か何かか。繋ぎのタイツも切り揃えた髪も濃すぎる眉も、何もかもが馬鹿げて暑苦しい。
「意外なのはこっちも同じだよ。こんなとこで暁の人が何してんの?まさか散歩でもないでしょ。砂に用でもあった?」
力の抜けた様子でカカシが飄々と言う。鬼鮫は暑苦しい男に向けていたしかめ面をそのままカカシに転じた。
「何故砂に用だと思うのです?あなたたちこそ砂に用でも?」
「さあどうかなぁ。砂に用ねえ・・・・」
ふわふわと答えながらもカカシから隙は窺えない。斜め後ろに立つ珍妙な男も同様。
・・・連れも手練れと見受けますね・・・・
鬼鮫は目を細めた。
「成る程。随分大事な用があるようだ。しかし今砂に行ったところで残念ながら何もありませんよ。少し出足が遅すぎたようだ」
「何?牡蠣殻はもう木の葉へ向かったのか?」
カカシの連れが鎌にかかる。
鬼鮫は口角を上げた。
単純な方ですねえ・・・・こんな男と組まされるとは写輪眼もご苦労な事だ。
「・・・・・ガイ・・・・・お前ねえ・・・・」
呆れ顔のカカシにガイと呼ばれた男はハッとする。
「ム?口が滑ったか?今のはしまったところか?スマン、カカシ!」
「スマンじゃないでしょ。頼むよホント」
「あの人を消しにでも来ましたか?」
鬼鮫の言葉にカカシが笑った。
「何でそう思うの?いきなり随分物騒な事言うね。確か牡蠣殻さんは暁と付き合いがあった筈だけど・・・・」