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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第23章 大ハード


牡蠣殻はひっそりと寝台に横たわっていた。
目を閉じたまま動かない。
眉根を寄せてすらいない。
ただただ静かでいる。

「薬で出血の量は多少抑えられましたが、このままでは長くない」

波平が牡蠣殻の枕辺でその手を握って淡然としている鬼鮫に告げた。

「これは私一人では手に余る」

「この人は死ぬんですか」

事も無げな鬼鮫の問いに波平は暫し間を置く。

「輸血しながらの手術は常套ですが、何しろ牡蠣殻のこの質の事、生半の施術では済みますまい。右顎を穿たれて骨が砕けている。これを一度摘出して、接いでやらねばならない。時間もかかりましょうしその間の出血は並大抵ではないでしょう。加えて牡蠣殻の体は弱っている。正直定かな事は言えません」

「しても助からないような事はしなくて結構ですよ」

平然と言い放ち、鬼鮫は傷だらけの牡蠣殻の手を長い親指で撫でた。
生傷がザラザラと触る。そう言えば滑らかなこの女の手に触れた事がない。触れればいつも傷付き乾いてザラついている。

「私が殺します。手術など要りません」

「干柿さん」

「この人が死ぬのを見たくないなら出て行きなさい。邪魔立てするならあなたも殺しますよ」

「これは私が一緒に来なくとも生きていてくれと希った女。みすみす殺させる訳にはいきません」

「あなたも物好きだ。この人のどこにそうも入れ込むのです?」

「あなたはこれをどれだけ知ってそう言うのです?私が知るより牡蠣殻を知っている訳ではないでしょう」

「これはまた。あの師匠殺しと消えたあなたの姉上も似たような事をほざいていましたよ・・・フ」

鬼鮫は片口を吊り上げて牙を覗かせ、凄みのある笑みを波平に向けた。

「私にはこの人を知る必要はない。この人も私を知る必要などない。この人の最期は私のものです。それで全て事足りる」

素っ気なく笑みを掻き消して牡蠣殻に視線を戻すと、鬼鮫はその掌に口付けて離し、再び波平を見た。

「私としてもこの人を誰かと送るのは本意ではありません。行きなさい。もう会う事もないでしょう。ああ・・・ご健勝で。この人ならきっとそう言いますね」

「殺したつもりでこれの事は忘れて下さい。私は磯辺を諦めるつもりはない」

「忘れる為に殺すのでも忘れない為に殺すのでもありませんよ。この人は私のもの。ただそれだけの事」

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