第23章 大ハード
「考えている」
「使えるものを使わぬような愚は犯さんぞ、ワシは」
すかさず言ったチヨバアへ、我愛羅は意に反してアッサリ頷いた。
「利用されると思うから了見が狭くなる。他の為に己を有益に役立たせる機会だと思えばいい。しかしそれ以外のやり様は認めない」
我愛羅の目がすぅっと細くな,る。
「俺が絶対に認めない」
チヨバアは肩をすくめた。
「せいぜい巧く立ち回るわ。ご機嫌とりが通じりゃいいがな」
「機嫌をとるのではない。文字通り受けとめてくれ」
「やかましい。わかっとるわ」
チヨバアは面倒そうに顔をしかめて深水に目を転じた。
「牡蠣殻は見たのか。これの最期を?」
「見た。反撃に走って傷を負ったのだ」
チヨバアに倣って深水を見ながら、我愛羅はコクリと頷いた。
チヨバアは眉根を寄せた。
「随分深水によっかかっとった様に思えたが、大丈夫なのか。気の弱ったヤツの施術はそれでなくとも面倒なんじゃが」
「生きる事にしがみつく力のないヤツは呆気ないもんじゃ」
エビゾウがポツンと言う。
「・・・・俺にはわかる。その弱さを知っている。それ故に尚更牡蠣殻を生かしたい」
我愛羅の声に力が入った。
「周りや身の上を避け呪うだけでなく、助けられて更に己の足で立つべきだと言う事、容易くはないが身近であっていい生き方だ。それを牡蠣殻も知ってくれればと思う」
「いつからそう世話焼きになった、我愛羅」
チヨバアが眉を跳ね上げた。面白そうに我愛羅を覗き込んで、その静謐とした目をじっと見る。
「まるで別人みたようじゃの?」
「要らぬ世話まで焼けるようでなければ影は勤まらない」
括淡と応じてフと我愛羅は顔を上げた。
「・・・・・・また何かあったか・・・」
呟いてチヨバアとエビゾウに目を走らせる。
「深水師と牡蠣殻を頼む」
言うや着衣の裾を翻して部屋を出た我愛羅を見送って、エビゾウがほうほうと気の抜けるような声を上げて笑った。
「閉じ籠っとっても何の変わりなく時間は流れよる。悪くないのう」
「怠けとっても面白いモンが見れるのは年寄りの余録じゃ。・・・・深水は残念な事だの」
深水を見てチヨバアは瞠目した。
「不出来な弟子を救ってやる事も出来んし、その成長を見届ける事も叶わん。・・・早死になどするモンではないわ・・・」