第23章 大ハード
「・・・結局あの長いのについてったのか、杏可也は」
深水の顔を見下ろしてエビゾウが呟いた。
「出来とったんじゃな、あの二人。好いとる女を売女呼ばわりなんぞして最近の若いモンは・・・」
「年ゃ関係なかろうよ、こういう事は」
穏やかな深水の顔を拭ってやりながら、チヨバアは小さな声で答える。
「悋気じゃな」
「・・・・深水は知っとったんかの」
エビゾウの問いにチヨバアは首を振る。
「んなこたわからん。わかりたくもないわ」
「知らんで逝ったのなら救いもあるんじゃが」
「今更何を言うても詮ない事よ。もう放ってやるのが供養というものだろ」
「・・・・牡蠣殻はどうなんじゃ?」
「浮輪が診とるんじゃろ。わしゃアレの体はよくわからん。・・・まあ外科手術が必要なレベルの傷じゃある。出血もひどい。アレの場合、その出血がクセモンじゃろ。ありゃ薬で抑えられる程度の出血じゃないわ」
「・・・・チヨバア様なら外科手術が出来るのか?」
二人の傍らで黙って話を聞いていた我愛羅が初めて口を挟んだ。
彼が深水をここに運び込んだのだ。
「今ごたついている。ここが一番静かに寝かせておけるかと思った。いいだろうか」
そう言ってあまりそっと横たわらせるものだから、隠居二人は深水が寝ているのかと思った。
我愛羅は多くを語らなかったし、隠居二人も大筋を聞いて後は多くを聞かなかった。
荒浜がまた来て、深水を殺した。そして杏可也は腹の子と共に荒浜と消えた。
そういう事だ。
「しろったってしたくないわ。血の止まらぬ相手に手術なぞ・・・」
「浮輪の手に余るようなら助けてやって欲しい」
「・・・牡蠣殻に何かあっちゃ木の葉に顔が立たんからか」
「泣くのをみたくない」
「誰が」
「汐田」
「磯の小娘か」
「泣くとも思わない相手に泣かれると答える」
我愛羅はいつにも増して静かに言うと、ドアの方へ目を向けた。
「牡蠣殻に何の罪がある訳でもない。ああして生まれてきた事で周りを騒がすのが罪になるのなら、身の内に守鶴を飼う俺とても罪を抱えている事になろう。生きてさえいれば凶が吉に反る目もある。・・・・俺がそうであったように。俺は牡蠣殻を生かしてやりたいと思う」
「牡蠣殻を砂で引き受ける事も厭わんと?」
エビゾウの問いに、我愛羅は一瞬間を置いて頷いた。