第23章 大ハード
何か間違えたような気がして落ち着かない。
凍える体を震わせながら牡蠣殻はぼんやり考え続けていた。
違う・・間違えたのではなく、忘れている。何か大事な事を。
何だった?何があった?
体が怠く、気分が悪い。また出血しているのか。しかし寒い。凄く寒い。体を丸めたいのに、動けない。
目を閉じているのにチカチカと色んなものが見える。
深水がいた。
怒っている。冷たい目。厳しい表情。
牡蠣殻は修舎時代の牡蠣殻で、深水も修舎時代の深水だ。
アタタ、また怒らせました。ごめんなさい。
見た目程怒ってちゃいないと気付くのに時間がかかった。怒られたからといって嫌われている訳じゃない事に気付くのにはもっと時間がかかった。
学舎を出て、皆が掛け持ちで様々な師につく中、牡蠣殻は否応なしに深水舎に入れられた。小さい頃からの主治医ではあるが、牡蠣殻は彼が苦手で仕様がなかったから、まるでやる気を失った。
謝るより何故怒られたかを考えろ。改善に繋がらぬ謝罪はいらん。
自分を大事に出来ない者は、他の何物にも価値を見出だせん。己を厭うな。
誰にでも優しいのは誰の事もどうでもよいと同義。けじめをつけろ。
全く面倒な。
ずっと苦手でいられりゃ良かったのに。そうすりゃ苦しまないですんだ。
泣くの嫌いなんですから。泣きたかないんですよ、ホント言ったら。
怒るのも嫌いだ。また自分を嫌いになる。
ああ、だから厭なんですよ。
人と関わるのは。好いたり嫌ったりしたくしたくない。煩雑な。
海士仁のバカたれ。
私はお前を赦しちゃいけなくなったじゃないですか。
・・・・杏可也さん・・・貴女を憎みたくない。
誰かに聞いて欲しい。私の思っている事を。私が感じている事を。
でも誰に?大体上手く伝える事も出来ないでしょうよ。例によって。
「バカですねぇ。あなたは」
手が温かい。干柿さん?
「他に誰がいるんです。また誰かと間違えようってんですか?バカは大概にして目を覚ましなさい。こんなことで死んだりしたら」
死んだりしたら?死にそうなんですか、私は。
「そのようですよ。しかしそれは私が許しません」
いや、それは知らなかった。あら、そうですか。
でもね、干柿さん。
何でだろう。私は今度こそ、消えてしまいたい。