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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第23章 大ハード


砂の壁に守られた藻裾が、その壁が空弾に圧されて異様な形に歪むのを見て声を上げた。

「・・・・・」

我愛羅が周りの様子を見ながら、再び砂の壁を巡らせて藻裾を庇う。

「ぅぐッ」

鮫肌で空弾を払った鬼鮫の背後で、牡蠣殻が呻いた。

ハッと振り返った鬼鮫の目に、顎もとから血を噴いてのけ反る牡蠣殻が映った。

「磯辺ッ!愚か者め!!!」

鬼鮫より波平より早く声を上げたのは海士仁だった。

首から血を滴らせ杏可也を抱えながら、形相を変えて幼友にして元同門の学友であった女を罵る。

「愚か者は誰だ?」

トンビを捌いて波平がズイと海士仁の前に立った。

メガネの奥の半眼がきつく吊り上がり、いつもは朽葉色の瞳がいやに澄んで薄くなっている。

凄く怒ってる・・・

場も忘れて杏可也は見惚れた。

滅多にない事だが、波平は激怒すると文字通り眼の色が変わる。珍しくはあるがそういう質の者は居るもので、波平もその一人だろうと深水から聞かされた。
僅かに緑がかる榛色の瞳が怒り故のものと知っていても、杏可也は昔からその目が好きだった。

それを間近で見るのもこれが最後かもしれない。ーいや、最後にした方がいい。

倒れ込み、いつぞやの干柿とかいう大男に半身抱き起こされて項垂れている牡蠣殻へ気遣わしげな目を向けて、杏可也は顔を伏せた。

「叔母上」

静かな声が杏可也を呼んだ。

顔を上げると、我愛羅と目が合った。

我愛羅は幼子のような真っ直ぐな目で杏可也をじっと見詰めて、スッと顎を引いた。

藻裾を取り囲んでいた砂の壁が崩れ、藻裾が牡蠣殻の元へ駆け寄る。

「それが、今の貴女の大切なものか?」

我愛羅の口から洩れた問いに 杏可也は口を引き結んだ。

もう背を重たげに丸めた子供ではない甥を見返す。その精悍な顔つきに杏可也は苦笑した。大人になった。全てに置いて。

「私の大切なものは、今ここにいるわ」

下腹部の膨らみをそっと押さえて海士仁の傷付いた首に腕を回す。

「海士仁。連れて行って。お前と行きます」

「姉さんッ」

「磯に戻れる筈もありません。かと言ってこのまま砂にいる意味もない」

もう動かない深水を見やり、杏可也は唇を噛んだ。

「海士仁」

「わかった」

頷いた海士仁がチラと牡蠣殻に目を走らせる。

「貴様どこまで・・・」
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