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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第23章 大ハード


「あぁァァまあぁにぁィィィいッ!!!!!」

伏して絶えた深水のまだ温かい体が杏可也の鳴き声以外の何者にも震わされぬ状態を、真っ先に断ち切ったのは牡蠣殻と藻裾だった。

揃って床が抜けるような勢いで足を鳴らし、真っ直ぐ海士仁へ向かって走り出す。

拳を打ちつけ続ける杏可也を片腕に抱えた海士仁が二人を見据えた。

「ッ、このバカがあァァァァァあァァッ!!!!!!」

「待てッ」

波平が叫んで再び手をかざし、我愛羅がバッと構えた。
その傍らを鬼鮫が影のようにスィと往き過ぎる。

「杏可也よ」

片腕に囲った恋しい女に海士仁が低く声をかけた。互いにしか聞こえぬ私語にも似た囁き。
海士仁を叩く杏可也の手が止まった。

「俺と来い」

「ッらあァァァッ!!!」

藻裾の蹴りが海士仁の空いた脇を痛打した。

「ぐッ」

杏可也の身を逆に退いた海士仁の口から喘ぎが漏れる。

杏可也は顔を上げて周りを顧みた。

構え直す藻裾、それと半ば重なったやや後ろに牡蠣殻がいた。

波平が、我愛羅が、映る。

しかし杏可也の目は牡蠣殻を捉えて動かなくなった。

牡蠣殻は脱力したような格好からフラリと腕を上げたところだった。
掌で何かを掬い取るような仕種でその腕を緩やかに動かす。

目が、常より黒目がかった目が、海士仁を凝視している。

厚手の袷のその裾がダバッと持ち上がった。

「止せッ」

海士仁が腕を上げ、杏可也を深く抱き込んで叫んだ。

牡蠣殻の差し伸べた腕の先で、軽く握られていた掌が、飛び立つ鳥の羽根のようにガッと開いた。

海士仁の大きな手も、答えるように補食する蛇の口の如くズワッと開く。

見えはしなかった。

しかし、見えそうに荒らかな風が衝突し、弾け飛んだ。

「ッ」

海士仁の体が杏可也を抱き込む。

牡蠣殻の前に鮫肌を構えた鬼鮫が立ちはだかった。

我愛羅の放った砂の壁が藻裾を囲う。

波平が駆けながら手を振るった。


バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂイイ イィィィツッッ ヂヂヂヂヂイイイィィイッ ヂイヂヂヂイィィィイッ


千万の雀蜂が怒り飛ぶような音と共に、荒ぶる風が四方に散った。

「くそッ」

波平が脂汗を滴らせて力付くで弾くも、なお数多の空弾がギュンと飛び交う。

「ぅわッ」
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