第23章 大ハード
「何故貴方までアレを利用する」
虚を突かれた。
ドンとドアが開いて空気の流れが変わる。
眼の隅に牡蠣殻の姿が映った。
「・・・先生ッ」
深水の方へ、牡蠣殻が踏み出した。
海士仁が顎を上げて笑った。
「アレの効用を繰る同士、これしきの傷に意味のない事は知っているだろう。正道を説こう」
波平が牡蠣殻の腕を引き戻し、手を上げた。
「波平!?」
杏可也が寝台から下りた気配。
海士仁の笑みが顔いっぱいに漲った。
「死出の道を万万が一にも戻り来ぬよう、足取りに加速をつけてやるのだ、師よ!」
大きく腕を振り、波平の失せ風をバチンと弾く。次いで音のように早い風に乗って海士仁の手からクナイが飛んだ。
見事。
ザックリ首をやられた。
杏可也の悲鳴に幾人かの声が入り交じる。
これは・・・・
瞬時に飛沫いた明るい血の色に、深水は即諦観した。
動脈がいった。深い。
更に牡蠣殻の血を受けた。どうでも助かるまい。
牡蠣殻・・・
茫然と立つ弟子の姿が目に入った。
助けて貰え。助けてやれ。そうしながら己の足で立て・・・・
大きな人影が彼女の傍らに立ったのを認め、深水は笑った。
・・・・それでいい・・・・
・・・・・・・これに関しては、間違わなかったと・・・・そういう事だ・・・・・良し・・・・
視線を巡らせて杏可也を探す。海士仁を叩いて泣き叫んでいる姿があった。
杏可也・・・赦せ・・・・
目が霞み、視界が暗くなってきた。気分が悪い。怠くて苦しくて立っていられない。
目蓋を閉じる。
杏可也が幼子を抱いて笑っている。
・・・・ああ。・・・・会いたかった。どうか・・・どうか息災で過ごしてくれ・・・・・
目端を涙が伝うのを感じた。
愛していたのだ、杏可也・・・・・