• テキストサイズ

連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第23章 大ハード


「何故貴方までアレを利用する」

虚を突かれた。

ドンとドアが開いて空気の流れが変わる。

眼の隅に牡蠣殻の姿が映った。

「・・・先生ッ」

深水の方へ、牡蠣殻が踏み出した。

海士仁が顎を上げて笑った。

「アレの効用を繰る同士、これしきの傷に意味のない事は知っているだろう。正道を説こう」

波平が牡蠣殻の腕を引き戻し、手を上げた。

「波平!?」

杏可也が寝台から下りた気配。

海士仁の笑みが顔いっぱいに漲った。

「死出の道を万万が一にも戻り来ぬよう、足取りに加速をつけてやるのだ、師よ!」

大きく腕を振り、波平の失せ風をバチンと弾く。次いで音のように早い風に乗って海士仁の手からクナイが飛んだ。

見事。

ザックリ首をやられた。

杏可也の悲鳴に幾人かの声が入り交じる。

これは・・・・

瞬時に飛沫いた明るい血の色に、深水は即諦観した。

動脈がいった。深い。

更に牡蠣殻の血を受けた。どうでも助かるまい。

牡蠣殻・・・

茫然と立つ弟子の姿が目に入った。

助けて貰え。助けてやれ。そうしながら己の足で立て・・・・

大きな人影が彼女の傍らに立ったのを認め、深水は笑った。

・・・・それでいい・・・・

・・・・・・・これに関しては、間違わなかったと・・・・そういう事だ・・・・・良し・・・・

視線を巡らせて杏可也を探す。海士仁を叩いて泣き叫んでいる姿があった。

杏可也・・・赦せ・・・・

目が霞み、視界が暗くなってきた。気分が悪い。怠くて苦しくて立っていられない。

目蓋を閉じる。

杏可也が幼子を抱いて笑っている。

・・・・ああ。・・・・会いたかった。どうか・・・どうか息災で過ごしてくれ・・・・・

目端を涙が伝うのを感じた。

愛していたのだ、杏可也・・・・・

/ 194ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp