第23章 大ハード
「また怪我をしたんですね。それは昨夜のものでしょう?こっちを使って下さい」
牡蠣殻はハンカチとリーを見比べ、ネジとテンテンに視線を巡らせ、フと笑った。
「口約束を信じて下さったのですか。ありがとう」
「礼には及ばない。こちらも仕事だ。・・・思い込みの強いサディスト?」
鬼鮫を見てネジが確認するように呟く。テンテンも興味ありげにじっと鬼鮫を見ている。
鬼鮫が二人の視線を受けて牡蠣殻をはたいた。
「あだッ」
「あなた何を吹き込んだんです?」
「喋くってねえで手当てしろって。また輸血なんてゴメンじゃん」
カンクロウが頭を掻きながら促す。
「そうだ、カンクロウさん!」
牡蠣殻はバッとカンクロウの手をとり、ハンカチ越しに両の手で握り締めた。
傍らの鬼鮫が腕を組んで眉をひそめるも、牡蠣殻は頓着しない。
「貴方にも、貴方にこそ礼を言わねば。ありがとう。お陰で助かりました。貴方のこの手に引き戻して頂いた事、きっと忘れません。苦手だなんて思って申し訳ない」
「・・・・いや、俺をどう思ってっかなんて言わないでいいから。胸に仕舞っとけって話じゃん・・・何か凹むだろ・・・?」
カンクロウがしかめ面で言った瞬間、空気が涼やかに揺れた。
牡蠣殻と藻裾が顔を見合わせる。
「これはまた、私の補佐が世話をおかけしたようだ。申し訳ない」
丈長いトンビを捌いて磯影が現れた。
我愛羅に目礼する波平に牡蠣殻は唖然とする。
「何でここに」
その牡蠣殻の頭へ波平の指の細い繊細な手が載った。
「干柿さんといたか。少しは甲斐があったようで何より」
鬼鮫が顎を上げる。波平は微笑した。
「何でここには磯の者に言っても詮ない事だろう?私達はどこにでも現れるのだから」
「何だ何だ、千客万来じゃん!アハハハハ」
波平と牡蠣殻をまとめてかき抱いて、藻裾が笑い声を迸らせた。
「コラ、無闇に触らない。汐田さん、喜んでくれるのは嬉しいのですが、今はそれどころではありません」
両手を上げて二人に触らぬよう気を配りながら、牡蠣殻は我愛羅と波平を見やった。
「海士仁と会いました。ここに現れるかも知れない・・・失礼」
腰の鞄から薬包を探り出し手近な湯呑みを煽ってそれを呑み下すと、牡蠣殻は我愛羅にまた目を向けた。
「先生と杏可也さんは何処です?」