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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第23章 大ハード


足を開いて形勢を変えた海士仁に、鮫が水の牙を剥いて襲いかかる。

それを見送った鬼鮫は、次いで僅かに目を張った。

海士仁が、その細腕で鮫の鼻面を押し返したのだ。

「・・・・ぐぅ・・・」

長いばかりで華奢な体からは想像もつかない力で鮫の巨体を押し退けかけた海士仁に、沸き上がった水の塊が襲いかかった。
圧倒的な水流が牡蠣殻共々海士仁を呑み込む。

鬼鮫は自らも水流に身を投じて激しい流れの中、牡蠣殻の姿を探した。磯を出自にもつあの女、情けない事に泳げない水際生まれ。

すぐに水流に翻弄されている牡蠣殻の頼りない姿が目に入った。

水に晒され意識が戻ったようで、苦しげだが興味深そうに目を見開き、鬼鮫の起こしたとてつもない量の水を見回している。

場違いな呑気さに鬼鮫は脱力した。こういうところにも、何かしら欠落したものを感じずにいられない。何故好奇心が先立つのだ。泳げもしないくせに。

先の衝撃で引き離された海士仁は鬼鮫より牡蠣殻から遠い位置で、これも幼子のように辺りを見回している。

"・・・・磯・・・おかしな連中ばかり目につく里ですよ・・・浮輪さんも苦労な事だ・・・"

泳ぎ着いて牡蠣殻に手をかけると、驚いた顔が向けられた。・・・鬼鮫に気付いていなかったようだ。

呆れ顔をすると、流石にばつが悪そうな様子を見せたが、同時に驚いた拍子に大量に吐き出した呼気の影響で、苦しげな顔をする。
鬼鮫は牡蠣殻を引いて水を蹴った。

その進路を泡沫の帯がザァッと覆い流れる。

水中ながらたたらを踏み振り向くと、海士仁だ。

牡蠣殻と違い泳げるようで、鬼鮫が自分を認めたのに気付き、薄い口を持ち上げて笑った。黒い目がすうっとすがめられる。

フと目の前を薄赤い水が筋を引いて流れて行った。

牡蠣殻が手を上げて、肩に掴まるよう促している。その手の血が薄赤い筋をつくってまた流れた。土気色を帯びた牡蠣殻の顔色に鬼鮫は眉をひそめる。水と血は性が悪い。

水流に変化が起きた。

見れば海士仁から出た大きな渦が、鬼鮫と牡蠣殻にその手を伸ばしている。勢いが強く、竜巻のような暴力的な渦。その引き込みが鬼鮫と牡蠣殻を引く。

牡蠣殻が強引に鬼鮫の手を自分の肩に移した。水でも呑んだか、えずいてまた大量の泡を吐き出し、必死で口を引き結ぶと目をすがめる。
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