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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第23章 大ハード


「・・・・・」

不意の事に目をすがめた鬼鮫が、間髪をおかず振り向き様に鮫肌を振るった。

鬼鮫の背後に現れた海士仁が、蜘蛛のように地に伏せ、牡蠣殻の腰を長い腕で絡めとる。

鬼鮫は咄嗟に足を張って鮫肌を引き戻し、海士仁の顔めがけて叩き付けた。鮫肌が長く白い軌跡を描いて走る。

海士仁は小脇に抱えた牡蠣殻の重心を利用して斜めに身を躱し、躱し様に目をすがめた。空気が動く。

「・・・・海士仁?」

牡蠣殻が薄目を開けた。

「ああ」

短く笑み含んだ海士仁の答えに、牡蠣殻の目から靄が消える。

「お前はまだこんな真似を・・・ッ」

堪えかねたような低い声を洩らし、力の抜けた体を強いてぐっと腰を跳ね足を上げ、牡蠣殻は海士仁の頬を蹴りつけた。

「く」

海士仁の腕が回転した牡蠣殻を押さえかねて離れる。

手足を着いて着地した牡蠣殻はそのまま低く構えると、体勢を崩した海士仁の腰を足で挟んでなぎ倒そうとした。

海士仁は身を捻ってそれを躱すと、スイと牡蠣殻の後ろに回った。

跳ね起き、振り向き様に肘を繰り出した牡蠣殻の腕が、海士仁の手刀に打たれて力なく萎え下ちる。

腹に拳を叩き込み、腰に容赦ない蹴りをくれて牡蠣殻を倒すと、海士仁はその背中を踏みつけた。

「力任せでは」

再び唸りを上げて襲ってきた鮫肌を倒れ込むようにフラと避け、海士仁は鬼鮫に顔を向けた。

「疲弊するばかり」

ヒョイと手を振ると、そこからビュッと風が走った。

鬼鮫は鮫肌を払って風を斬った。

「・・・・!」

この風、手応えがある。思わず眉根を寄せて鮫肌を構え直した鬼鮫を、一度四方に散った冷たい空気が一斉に斬りつけて来た。

バッと鬼鮫の体のあちこちが血を噴いた。

「何とも・・・始末に終えない」

顔を伝う血を拭って、鬼鮫はにやりと笑った。

「始末は」

牡蠣殻を肩の上に抱え上げて海士仁は鬼鮫を睥睨する。

「着けるもの」

フゥっと足元から冷たい空気が昇って来た。外套の裾が持ち上がるように揺れる。

「去ね。暁の」

「水遁・水牢の術!」

鬼鮫は印を結んで自らを球状の水に封じた。

「・・ほう・・」

風がぶつかり球は形を歪めたが、その斬手は鬼鮫まで届かない。

「五色鮫!」

次の印で水が沸き起こり、鮫の形を取った水の塊が水中から持ち上がった。
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