第3章 満身創痍
角都があまり感情を上らせない顔に苦々しい表情を浮かべた。
「深水は文字通り砂の深奥で身動きならぬ。他にお前の体を手当て出来るヤツはいないのか」
目当ての深水は、国境付近で辛うじて行き合った顔見知りで流れの武器商人からの情報により、砂の隠居に押さえられていると知った。
そこで守銭奴の角都が退いたので、牡蠣殻は驚いた。
砂の隠居とはそうも厄介なものなのか?何故その厄介な奴共に深水が捕らわれている?
更に身重の杏可也は、今どうしているのか。
ここで角都と牡蠣殻の攻守が逆転した。砂から遠ざかろうという角都に反し、牡蠣殻は飽くまで砂へ向かうと言い出したのだ。
「追い回されて砂に入ることも出来ん。限界だ。報酬の上乗せも肝心の血が失せては何の意味も持たない。言え。誰ならお前を助けられる?」
体力の消耗と相次ぐ出血でまた体が削げた牡蠣殻を木の根もとに座らせ、傍らの下生えから止血作用のある野草を横目で見極め、最早慣れてしまった手付きで手当てしながら角都は眉根をきつく寄せた。
「・・・海士仁なら・・・」
言いかけて牡蠣殻は口を噤んだ。
「アマニ?誰だそれは?どこにいる?」
「・・・いや、駄目だ・・・・」
細い首を項垂れて、牡蠣殻は口に入った血を吐き出した。首を覆う襟の奥からチャリリと金属の鳴る音がする。
「牡蠣殻。俺とてもお前を抱えてこのまま逃げ回る訳にはいかない。まして相手は木の葉の暗部、いや、根かもしれん。ただ逃げきれるものではないぞ。木の葉に残った磯の民を慮っている余裕はないのだ」
牡蠣殻が重たげに頭をもたげた。また首元からチャラと音がする。
「・・・・何故です?何故木の葉が・・・」
「俺の知り及ぶ事ではない。ー厄介な・・・」
「・・・殺しも捕らえもせず・・・」
「お前の血を採取しているのは明らかだ。流血の都度追跡が止む。しかし何故そんなまどろこしい真似をするのかまではわからない。・・・いや・・・」
調べ尽くした後弱った検体を確保する。利に叶う。
「・・・カハ・・・」
牡蠣殻は空咳をしてまた血をペッと吐いた。
「口を切ったのか?」
「大丈夫です。口に入っただけで」
口腔内は粘膜だ。血止めの薬を塗り付けられる箇所ではない。内服薬は昨日で切れた。
ギリギリだ。この脆弱な女は痣でも死ぬ。