第3章 満身創痍
「・・・何だってッ、・・・また、こんな事に・・・・?」
「黙って動け、馬鹿者」
「・・・訳が、分からない・・・何です、一体・・ッ・・・カハ・・ッ、ペッ」」
「言わぬ事ではない。口を閉じていろ」
「・・・いつまで・・・?」
「連中に聞け。・・・いや、面倒だ。矢張り殺ってしまった方が早い」
「・・・・・それは・・・駄目です・・・、角都さん」
「もういい。ここは任せて失せろ」
「・・・ヘバる前に、言えって・・・くッ、つぅッ」
木立が人の重みにしなって唸る。
枝から枝へ、幹を蹴って洞を掴み、体を持ち上げてまた枝の上へ、蹴り、掴み、弾き、去なし、動く度折れ砕けた木っ端や千切れ舞う木の葉が容赦なく視界を奪う。
皮膚が破け、また血が流れている。
牡蠣殻は滲む視界で己の体から流れ去る赤い血を見た。
「・・・くそ・・・ッ」
「・・・そろそろだな」
絶え間なく追いかかっていた音が止んだ。
まただ。
流れかかる血を肘で拭い、牡蠣殻は忙しい呼気の下で、かろうじて溜め息らしい浅い息を吐いた。
「まだだ。止まるな」
「・・・は・・・」
完全に追っ手の気配が消えたところで、角都が地面に降りた。次いで牡蠣殻が投げ出された麻袋の様な格好でその傍らに墜ちる。
辛うじて膝は着いているものの、体力の消耗が激しいのは一目瞭然だ。肩を上下させながら立ち上がった顔が紙の様に白い。
角都は顔をしかめて牡蠣殻に肩を貸した。
「猫にいたぶられる鼠だな。お前、死ぬぞ」
「・・・状況がわかるまで手を出せませんよ。・・・下手を打ったら残った人達がどうなるか・・・」
「限界だ。お前が動けるうちに何とかしなければ・・・このままでは俺も丸損する。考えただけで身の毛がよだつ」
「・・・流石に困りましたね・・・」
始めは木の葉の磯散開の場。
追っ手はそこから絶え間なく砂へ向かう角都と牡蠣殻を襲ってきた。昼夜を問わず規則性もなく、角都は兎も角、元より失せることもままならない状況で木の葉を出た牡蠣殻は疲弊が深まる一方で、相次ぐ出血も止血したところで造血が追い付かず、彼女の体は正に限界をむかえようとしていた。
「・・・まさか木の葉の暗部とはな・・・」
あの面。木の葉では音を装っていたが、明らかにあれは木の葉の暗部。