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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第21章 磯影


「・・・ふむ。よく我慢しているものだ。姉は閉塞された空間を何より嫌っていましたが・・・子を為して変わりましたかね」

「ほぉん・・・そりゃ不失故かいのう」

エビゾウの言葉に波平はぼんやりと卓の茶道具を眺めながら頷いた。

「失せる術を当たり前のように身につけた者に囲まれての不失は辛いもの。姉が不失故に抱え込んでしまった不自由は閉塞感を嫌う事だけではなかったようです」

「思わせ振りを言うな。言葉遊びがしたいならせめて笑わせろ」

酸い顔でチヨバアが波平を睨む。

波平は穏やかに頷いた。

「姉は荒浜海士仁と非常に親密な関係にあります。二人の関係に伴って磯の土性骨が揺るぎかねない事態が出来する可能性がある」

ゆったりと踝まで覆うとんびを捌いて、波平は彼らしくもなく、断りもいれず卓についた。
口許に和やかな笑みを浮かべ、卓の上で手を組む。

「二つ目。こここからはお二方に、磯影としての私を計った上で話して頂きたい」

「ほう」

チヨバアとエビゾウはのんびり冷めたお茶を啜った。

「と言う事は、ここからちぃと煩雑な話になるんじゃな?内輪の話ではなく、里と里の話に?」

「単刀直入に言えば、我が里磯と取り引き願いたいのです」

「何じゃお前、商売しに来たのか」

口調こそ呆れているが、チヨバアの目が真剣な色を帯びた。波平は真っ向からその目を見返して揺るがない。

チヨバアとエビゾウはチラと目を見交わした。

「磯の売りと言えば、薬か。何の薬を売り付けるつもりかの?」

「牡蠣殻を」

波平の答えに、隠居二人は微かに眉をひそめた。
波平はそんな二人へ底の見えない視線を注ぎ、不意にフと息を吐いた。

懐から丹念に綴じられた紙の束を取り出し、卓の上に置く。

「牡蠣殻の体について、深水が調べ得た全ての資料です」

チヨバアの肩がピクリと動いた。

波平は目を細めてチヨバアとエビゾウを見比べる。

「牡蠣殻が薬にも成りうるのをご存知のようですね」

「・・・・こんなモンがあるなんて、深水は言っとらんかったぞ」

チヨバアが言うのに波平は微笑した。

「それはそうでしょう。そもそも磯では里の知識を書き起こす事を長く禁忌としていましたからね。深水はここでもまた禁を犯している」

紙の束を確かめるように擦って、波平は茫洋とした表情を浮かべた。
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