第20章 出会い頭
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
鍵をかけかけたカブトの手が止まる。編笠を被り直した海士仁が懐手になる。牡蠣殻に外套を手渡した鬼鮫は目をすがめ、牡蠣殻の出しかけた欠伸は引っ込んだ。
「・・・・・おはようございます・・・」
牡蠣殻の間抜けた挨拶を皮切りに、牡蠣殻以外の三人が一斉に動いた。
カブトの懐から現れたクナイが鬼鮫目掛けて放たれ、海士仁が長い足を踏み出して牡蠣殻に手を伸ばす。
それらを先んじて動いた鬼鮫はクナイの的に残像を残し、牡蠣殻の腕をとって走り出していた。
海士仁の手が空を掴む。
「あなたという人は・・・!どこまで馬鹿なんですか!何であそこで挨拶が出る?度し難いにも程がある!」
鬼鮫に罵られた牡蠣殻は、律儀にも外套を抱えて走り辛げだ。
「外套なぞ捨てなさい!」
「折角宿の方が支度して下さったのに」
「ズレてますよ!寝惚けてるんですか!目を覚ましなさい!」
「寝惚けてません!あ」
冷たい風がヒュッと頬を掠め、牡蠣殻は咄嗟に鬼鮫の腕を振り払おうとした。
抵抗された鬼鮫は反射的に腕を掴む手に力を入れ、殊更強く牡蠣殻を引いた。
鬼鮫も気付いている。
海士仁だ。
腹が引きつるような感覚が来た。
"攻撃ではない。・・・失せる・・・?"
牡蠣殻がまた手を振り払おうとする。
「止めなさい、この馬鹿者!」
「離しなさい!巻き込まれる・・・!」
牡蠣殻が叫んだ瞬間、あのガクリと足を踏み外したような感覚に襲われる。視界がぶれ、再び焦点のあった目に映ったのは砂漠。
「退いて下さい!」
牡蠣殻が鬼鮫の腕を強く引く。虚を突かれて二三歩、歩を移した鬼鮫の前に牡蠣殻が出た。
ビュッと空を切る音に抗し、牡蠣殻が目をすがめて両の手を払うように左右へ広げる。
生暖かい風がフウと牡蠣殻の袷の裾を持ち上げた。
バチンと弾けるような音がして冷たい風が消え、牡蠣殻の両手が血を噴く。
「あぁ、また・・・」
情けない顔で牡蠣殻が呟いた。手に幾筋もの傷が走り、赤い血がパタパタと砂を染める。
「・・・・・・」
牡蠣殻の肩に手をかけて、鬼鮫が出た。
すかさず次の風がヒュッと吹き込み、鬼鮫の脇腹にざっくりと傷の口が開いた。
「干柿さん、退がって下さい」