第18章 朝から難儀な・・・
「あァ?まだ何か文句があるんですか?」
「・・・・・・・」
鬼鮫は立ち上がって牡蠣殻を手招きした。
「・・・何ですか?」
「いいから来なさい」
尚も手招きされて、牡蠣殻は目をすがめた。明らかに警戒した様子で渋々鬼鮫の前に立つ。
「あなたさっき、どうでもいいと言いましたね?」
鬼鮫に言われて牡蠣殻はパッと顔を上げた。
「違う。あれは・・・」
言いかけた牡蠣殻の腕を捕ってグイと引き、鬼鮫は倒れ込んできた体を受け止めた。
「全く味気ない言い方ばかりする人ですねえ、あなたは」
松明花の残り香と栗茶の色目のせいで、違和感のある牡蠣殻を抱き締めて顔をしかめる。
「しかしさっきの味気なさは嫌いじゃない。あなたにしちゃまたもや上出来です。今朝のあなたはなかなかですよ、牡蠣殻さん」
「・・・味気ない褒め方ですねえ、干柿さん」
「フ。慣れなさい。私はこうした物言いしか出来ませんから」
「・・・何ですか、言ったもん勝ちですか?不公平ですよ、そりゃ」
「人生は不公平なものです。慣れなさい」
「ビル・ゲイツ?」
「彼ほどの金持ちに言われると清々しく納得いきますね。だからあなたも納得しなさい」
「・・・干柿さん、そんな金持ちなんですか?その割りにはお金の気配を感じさせませんねえ、奥床しい事・・・」
「言葉に気を付けないと口から内蔵が飛び出る程胴を締めますよ?意外に情熱的な私をご覧にいれましょうか?」
「それはただただそのままの干柿さんですよ。意外だと思ってるのは貴方だけです」
「相変わらず際限なく返して来ますねえ・・・飽きないと言えば飽きないが、毎度毎度、その減らず口には腹が立つやら感心するやら」
「独りでは口が足りるも減るもありません。即ち貴方の減らず口あっての私の減らず口。ご自覚なさる事をお勧めします」
「ほう。私も口が減らないと言いたい訳ですね?」
「流石理解がお早い。安定の効率よさです」
「・・・・本当に先は遠そうですね」
鬼鮫は苦笑して牡蠣殻を見下ろした。
「あなたに会ったばかりに、面倒な事になったものです」
「はあ?」
「いいですよ。気にしないで下さい」
牡蠣殻の目を覗き込んで、鬼鮫はもう一度この逃げ巧者を抱き締めた。
「馬鹿げた事です。その面倒な女に会いたくていたのですからねえ。・・・全く」