第18章 朝から難儀な・・・
「寝惚けてません」
「じゃほんの一瞬殊勝げだったあなたはどこに行ったんです?何か憑いてましたか?」
「・・・寝惚けてないと思います」
「別に寝惚けたっていんですよ?寝起きなんですから」
「?寝惚けてたかな?」
「まあいつだって寝惚けてるようなものですからね、あなたは。たまにはハッキリ目覚めてみたら如何です?」
「フ。だからって頭が吹っ飛んで別パーツになりかねない程殴り付けますかね。本当に息の根が止まるかと思いましたよ」
「いいえ。あれはあなたが砂のガキと手を繋いだと聞いたので殴ったんですよ」
「・・・ああ・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・わかってないでしょう?」
「・・・・どうでしょう・・・」
「・・・もういいですよ。あなたどうにもそこらへんの情緒がごっそり欠け落ちてるようですからね。気長に待ちますよ、少しはマシになるのを」
「気長?干柿さんが?」
「私は気長ですよ。待つ必要のない事には即断で片を付けたいだけで」
「成る程」
「せいぜい私を怒らせ過ぎないよう気を付ける事です。マシになる前に死にたくないでしょう?」
「わかりました。よくわかりませんが精進します」
「・・・・わかってないじゃないですか。歩みは遅々として辿り着くまで遠そうですね・・・」
「助けて貰ったんですがねえ・・・何がそんなに悪いんですか?私は貴方が居なくなるのを止められるなら、貴方が誰と何をしようが一向に構いませんよ。まるっきりどうだっていいな。貴方の存在に足る代償は何処にもない」
「・・・・・・」
「失礼」
牡蠣殻は鬼鮫の手を離して寝台から下りると、部屋のドアを開けた。
ドアの横にあった籠を部屋に引き入れて中から洗い立ての袷と脚衣を取り出し、替わりに今まで着ていた浴衣を脱ぎ入れる。
「とは言え、考え方は人それぞれですから、干柿さんが厭がるような事はしないように勿論気を付けますよ」
徳利首と膝丈の脚衣に洗い晒しの袷と長脚衣を重ねながら、牡蠣殻は難しい顔で言い直した。
「兎に角、気を付けてはみます」
栗茶の徳利首が青丹の袷と紺鉄の脚衣に思いの外映えた。地味に変わりはないが、色目に僅かなりとも赤みが加わると印象が変わる。
「しかし下に着込んでいるとは言え、何の躊躇いもなく着替えますねえ、あなた。何とも粗忽な」