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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第18章 朝から難儀な・・・


「深水は仕留める」

もう一度言って、海士仁はまた欠伸した。

「返して貰う」

寝台から下りて煙管の雁首を卓の縁にガンと叩き付ける。

「幾らでもやるぞ、磯辺の血を」

床に落ちた煙草の火を踏み消して、海士仁は唇の薄い大きな口に笑みを浮かべた。

「アレは俺の検体だ」





右方の部屋では、椅子に座ったままうつうつと浅く寝ていた鬼鮫が目を覚ましたところだった。

目覚めた鬼鮫は即座に寝台の上に目を走らせた。

掛布の丸みが静かに深い寝息をたてている。鬼鮫は息を吐いた。

冷え込んだ朝の空気の中でフと片手に温かさを覚えて見れば、繋ぎあわされたままの大きな手と小さな手が目に入る。

「フ。律儀な事ですね」

誰にともなく言うと、膝に両肘をつき、牡蠣殻の手を両手で包んで額に当てた。

「・・・逃げませんでしたねえ・・・あなたにしちゃ上出来ですよ」

呟いて目を上げると、いつ目覚めたのか牡蠣殻の目にぶつかった。

何を思っているのか、じっと鬼鮫を見詰めている。

鬼鮫は繋いでいない方の手を伸ばして、牡蠣殻の首元からこぼれかかる指輪に触れた。

「ちゃんと着けてましたね。これもあなたにしちゃ上出来です」

温かい指輪から手を離して牡蠣殻の頬に掌を載せる。

「体温が上がっていますね。大分楽になったでしょう?休まりましたか?」

「ずっといらしたんですか」

いつもの低い声が、寝起きとも思えない明晰な音で問う。眼鏡なしで見辛いのか、眉間にシワが寄っている。

「朝からしかめ面とは験が悪い。あなた、験担ぎがお好きでしょう?」

一度だけ頬をスッと撫で下ろして、鬼鮫は牡蠣殻の顔から手を離した。

「また迷惑をおかけしてしまいました。すいません」

いやにシンとした目で鬼鮫を見ながら、牡蠣殻が半身起こす。

「また随分としおらしい。調子が狂いますよ。殴り付けたのが申し訳ないような気になりますねえ」

「・・・・あ」

牡蠣殻がパチンと音がしそうな様子で表情を変えた。

「思い出した。・・・・干柿さん、ホントに朝まで目が覚めない程度の一発を食らわせやがりましたね?やがりましたよね?」

全然シンとしてない三白眼で鬼鮫を睨みつける。

「・・・・あなたひょっとして、さっきまで寝惚けてたんですか?また判り辛い寝惚け方しますねえ・・・・」



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