第16章 右隣
「そんな当て付けがましい食べ方をして、気分が悪くなっても知りませんよ」
「粥は好きです」
「だから?」
「大丈夫です」
「・・・馬鹿らしい事を言ってないで普通に食べなさい。おかわりは?」
「要りません」
続いて汁椀を掴んだ牡蠣殻の手を、鬼鮫がガシッと押さえる。
「普通に食べなさい。普通に」
「・・・何なんだ、一体」
「こっちの台詞ですよ」
「あ、鱈が入ってますね」
椀の中に白身を見つけて牡蠣殻が明るい顔をした。
「鱈が好きなんですか」
拍子抜けしたように尋ねる鬼鮫に、牡蠣殻はコクコクと頷いた。
「青背と白身は漏れなく好きです」
「牡蠣殻さんは大根と豆腐で出来てるのかと思ってましたよ」
「・・・違いますよ」
「意外に色んなもので出来てたんですねえ・・・」
「・・・まあそりゃ一応・・・・食べ辛いですよ」
「ああ、失礼。どうぞ。ごゆっくり」
「・・・重ね重ねご丁寧にどうも」
「どういたしまして」
「・・・・・・」
牡蠣殻はガツッと汁椀を掴んで、止める間もあればこその勢いで中身を掻き込んだ。
「頂きました。ご馳走さま。ゲフッ!」
カッと椀を卓に置き、フンと鼻を鳴らして鬼鮫を見る。
「・・・何やってんですか、あなたは」
鬼鮫は呆れて笑い出した。
「ホントに可愛くないですねえ」
「ありがとうございます。干柿さんも可愛くないですよ。お互い良かったですねえ」
白湯の残りを啜りながらケッとばかりに返す牡蠣殻を見、鬼鮫は腕と足を組んで目をすがめた。
「面白いですねえ、牡蠣殻さんは。あなた、突拍子もない話をする事にかけたら、実になかなかのものですよ。フ、減らず口の効用ですかね」
「減らず口に効用なんかあるんですか」
卓に肘をついて、腹が膨れた牡蠣殻は早くも眠そうにしている。
「眠ければ寝台に行きなさい。この上に風邪などひいたら目も当てられませんよ」
「そうします。干柿さんはイタチさんのところへ?」
牡蠣殻の問いに鬼鮫は一瞬目を細めた。
「そうですね。そうしましょう。ゆっくりお休みなさい」
「お見送りします」
「湯冷めされても後味が悪い。寝台に入りなさい」
「大層お手を煩わせてしまいましたから、お見送りくらいさせて下さい。何だかんだ言いながらご親切にして下さってありがとうございました」