第2章 相談役の相談係
「何だヨ、アタシを追い出そうったってそうはいかねえぞ?行きてェとなったら自分で決めて行きますよォ。余計な口出ししてんじゃねえ。怒っちゃうよ、この高畑さんは」
しおたれたオメエは見たくねんだって。
女には優しくという父親の呪いが藻裾相手でさえも発動してしまう自分が怖い。
シカマルはぼんやりといのや砂のテマリの事を思い浮かべて内心苦笑した。
俺ァ気の強い女が弱るとこを見んのが厭なのか・・・
「磯師は大人しくて辛抱強い。だから何かあってもなかなか自分からは言い出しゃしねえからな。気を配ってやって欲しい。里の六割を占める連中がそういうヤツらだから磯はやっていけたんだ。商売気質の潜師、学者肌の薬師、口功者逃げ功者の多い野師、少数ながら癖が強い師族が上層を占める中で磯師は文句も言わねえで里を支えてきた。ホント言やぁ、磯師はずっと定住したかったんじゃねえかな・・・だから今度の事で木の葉に残ったほとんどがアイツらだってのは、物凄ぇフに落ちる。薬作りにかけちゃ右に出るモンはいねえ器用な連中だし、大事にしてやって下さいよ」
木の葉に残った磯の民の名簿を繰りながら、藻裾が珍しく真面目に言う。
「薬師が三人、潜師が五人、野師に至っちゃ0・・・たく、この野師ってヤツは・・」
「何だって放浪癖のある師族を長に据えたんだ、磯は」
自分は木の葉に残らなかった者の名簿に目を通しながら、シカマルは素直な疑問を口にした。
「黄泉隠れで里を動かす事が出来んのはあの連中だけだからね。そもそも四つに分かれたとは言え、磯の血の始祖は野師だ。誰も彼も失せ方を知ってるのはそのせいだよ」
「・・・ホント妙な里だな、磯は」
「うるせえな。人ン里にアヤつけんじゃねえよ。あー、腹減って来た。バンビ、飯行こうぜィ」
「もうかよ。てかテメエ、おでんと帆立重奢れよな」
「ちっせぇ事に拘んな。もっとデンと構えなくちゃだゼ、奈良くん」
立ち上がってシカマルの傍らを通り抜け様に、藻裾は残らなかった者の名簿にチラと目を走らせた。
その目はこの名簿を見る度決まって一点で止まる。
先行きが決まらぬまま磯にも木の葉にも残らなかった三つの名前。牡蠣殻と藻裾に先んじて記された氏名。
荒浜海士仁。
「・・・癖の強ェ師族ばっか引き連れて、波平様も難儀だ。磯ァこっからが正念場だ」