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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第15章 左隣


背を向けて手枕した海士仁へカブトは呆れた目を向けた。

「・・・荒浜。君、あちこちで牡蠣殻の血を使ってるだろう」

「頼まれた」

「謀殺に加担してビンゴブッカーになるなんて、馬鹿らしいとは思わないのか?」

「只試すより意義がある」

海士仁は振り向いて意味ありげにカブトを見返した。カブトは苦笑いして眼鏡を指先で押し上げる。

「ボクの実験に物申すって事かな?」

「無駄遣い」

「データが得られたんだ。無駄じゃない」

「手元に検体は残り僅か」

「・・・・・」

「無駄遣い」

「君は持ってるのか?牡蠣殻の血を」

「やった」

「やったって・・・誰かにくれてやったのか?馬鹿な、誰が・・・・」

言いかけてカブトは伺うように海士仁を見た。

「・・・ダンゾウにやったな?効き目を見せつけて煽ったんだろう?何だってそんな真似を」

「俺は磯影になる」

「何どっかのモンキーみたいな事言ってるんだよ。それとこれと何の関係がある?」

「磯は強い里になる」

「磯が?あの磯が?」

「なる。俺がする」

海士仁は詰まらなそうに言って、またカブトに背を向けた。

「何を企んでる?ダンゾウが関われば事は面倒になるばかりだぞ」

カブトの言葉に海士仁の背中が揺れた。笑ったらしい。

「知らん」

揺れの治まった背中から、面白がるような声が漏れた。

「木の葉の面倒は火影が治める」

「内輪揉めさせたいのか?何の為に?」

「知らん」

「・・・・おい、いい加減に・・・・」

ドン、と壁がなって、カブトは口を噤み、海士仁が顔を上げた。

壁と天井から塵と細かな木っ端がパラパラと落ちかかる。

「・・・・何だ?」

「知らん」

「そらそうだろうけど!」

「気にするな」

「壁が崩れかかってんだけど?ボクも君も壁に穴の空いた部屋で隣人と親しく顔を見合わせて過ごすような質じゃないし、立場でもないだろ?」

「面倒な」

「部屋を移るか?」

「始末して来い」

「・・・それこそ面倒だよ。寝転んでないで自分で行きゃいいだろ」

「何をしに」

「始末するんじゃないのか?」

「やれ、面倒な」

海士仁は頭を掻いて立ち上がった。カブトは目を丸くして海士仁の細長い立ち姿を眺める。

「ホントに行くのか?」

「ああ?」

「いや、ああ?じゃなくさ。何キレてるんだよ」
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