第15章 左隣
「何故怒る?」
「君が何かにつけて失礼だからだろ。おい、勝手に検体に触るなよ」
寝転んだまま腕を伸ばして卓の検体を取り、灯りに掲げて透かしみる海士仁へカブトが尖った声を上げる。
一頻り検体を眺め渡した海士仁は、興味を失ったように検体を卓に戻した。
「磯辺の血液の伝染性は、飽くまで一代限り。一代で劣性因子に成り果て、淘汰され、二代目を生むことはない」
「そこを改良したいんだ」
「出来ぬ」
「何故」
「最も重要なファクターが血の牧地、即ち磯辺の体。遺伝子から引き写さねば同じくあの血を飼い続ける事は不可能」
「それがどうして形成されているのかが解れば、伝染性の継続も不可能じゃないかもしれないだろう?でなければ血の遺伝子に操作を加えて、優性因子に変えてやる事が出来るかも知れない」
「主要因が特定出来るとは思われぬ。複数の不可否が複雑に絡み合って成り立つのが生体。容易に御しきれるものではない」
海士仁は面白そうに言って、目を細めた。
「可能性があるとすれば、二代目」
「・・・・二代目って、ジュニアか?」
「子を為す」
「成る程な。だから君・・・・しかし牡蠣殻に子供がつくれるのか?あの体で?」
「可能」
「出産は大量の出血を伴う。下手したら主検体たる牡蠣殻を失いかねないぞ。子供に優性遺伝子が現れるとも限らない。賭けだ」
「ない」
「・・・ないって?」
「俺が看る」
「だから?」
「死ぬ事はない」
「・・・君、牡蠣殻を殺しかけてるだろ?」
「他に利用させたくない」
「検体を横取りされたくない訳だ。となると、ボクも許せないんじゃないのかな?」
「かもな」
「はは。正直だね。しかしそれなら何だってボクらと連んでるんだ?大蛇丸様を甘く見ない方がいいぞ?」
「気に入った」
「気に入った?」
「面白い」
「またそれかよ 」
「薬師。お前は馬鹿だ
「ムカつくな、荒浜」
「馬鹿だが、馬鹿ではない」
「分かったよ、それは。もういいよ」
「同じだ。解りやすい」
「流石にぶっ殺すとか何とか言いたくなってきたなあ・・・」
「返り討つ」
「あんまりボクをなめるなよ?ボクだって腕に覚えがない訳じゃないんだ」
「寝る」
「わぁお!何なんだよ!君は!」