第15章 左隣
「容易は言い過ぎた」
「・・・・どっちにしろわからないんだから、半端に気を使わなくていいよ」
「使わぬ」
「ああ、そ。気は使わない?いいよ、別に。使って欲しい訳じゃないしね」
「やさぐれた」
「やさぐれてません。・・・言葉数は少ないけど、君結構うるさいよね?」
「ハ」
「・・・・笑うときまでそれかよ・・・・」
「それ?どれ?」
「・・・・どれってだから、言葉数が少ない・・笑い声が少ない?変だな。そんな言い方しないよな?」
「知らん」
「・・・自分で聞いてきたんだろ?」
「知らん」
「ムカついて来たなあ。君も磯の者らしく、人を苛々させるのが巧い」
「磯に限らず」
「ああ、まあ、磯に限らずいるよ、そういう人は。・・・・いるね、デカくて魚で慇懃無礼なのとかね。うるさくて髷が邪魔で危険物フェチとかね。死なない間抜けのくせに口が回って満更馬鹿じゃないパンダ野郎とか?睡眠薬も効かない象ばりの鈍さのヤツにカバ呼ばわりされるなんて、ホント苛つく。・・・カバ・・・・徹子の部屋・・・・チッ。いるね、確かに」
「知らん」
「・・・・・・・・ああ、いいよ。聞き流してくれよ。いいんだ、別に」
「・・・・・」
「・・・だからって欠伸は止せよ、おいコラ」
「やさぐれた」
「磯はねえ、苛つかせ上手の含有率が高いんだよ。そこは否定するなよ?」
「ハ」
「ハじゃないだろ、怒らせたい訳?」
「今更」
「・・・・確かにもう怒ってるけれども!」
「な」
「なじゃないだろ?」
「ハ」
「バ・・・・ッ。く。フッ。いいよ。ボクは別に気にしないよ。君はそういう人だ。我慢する」
「ククッ」
「・・・・・何だよ。ボクが我慢するのがそんなに面白いのか?」
「うん」
「うんじゃないだろ。馬鹿にするなよ?」
「馬鹿ではない」
「・・・・・」
「馬鹿だが、馬鹿ではない」
「おい」
「俺と同じだ」
「・・・・厭だな、それは」
「同感」
「・・・・じゃ言うなよ」
「仕方ない」
「黙ってたらいんだよ、わざわざ言わなくても!どうせそのうちどっかから突っ込まれるような事はさ!」
「自明の理」
「やかましい」
「ハ」
海士仁は長い手足を伸ばして気持ち良さそうに寝台に横たわった。
「面白い」
「ああ?」
「怒るな」
「なら怒らせるなよ」