第14章 変わったような、変わらぬような
その扁桃型の目を見返して鬼鮫は腰を屈めた。
「本当は気を失うまで殴り付けてやりたいんですよ。こんなところへ連れ込んだのも七割方はそのつもりでしたしね」
「・・・・ああ、成る程、そういう七割でしたか。物凄く納得しました。で、何だって私は気を失うまで殴られなきゃいけないんですか?角都さんの事ですか?指輪の事ですか?」
「あの男は」
牡蠣殻の膝の下に手を差し入れてヒラリと抱き上げ、鬼鮫は寝台に向かった。牡蠣殻は以前より軽く、鬼鮫の眉間にシワが寄る。
「どんな事をあなたにしました?どこまでどんな風にあなたに触れました?」
寝台の縁に牡蠣殻を座らせ、自分も牡蠣殻を跨ぐ格好で彼女を後ろから囲い込むように座ると、鬼鮫は牡蠣殻の徳利首を下ろした。
「全く不愉快ですよ。あなたにも角都のように幾つか心臓があればいいんですが。一度殺せば次がないというのはあまりに呆気なさ過ぎる」
牡蠣殻の頭をぐいと押さえ付けて俯かせると、鬼鮫はチリと音をさせて指輪を取り出した。
「いっそ半田鏝で接着してやりましょうかねえ・・・。私が外すなと言ったら外されないんですよ?わかりますか?」
「いや、ですから私が外した訳ではない・・・」
「言い訳しない。これは私があなたにやったものです。安易に余人が触れていいものではない。少しは誠意というものを見せてみなさい。あなたの好意はどうも私には伝わり辛い。愚弄されているような気がするばかりですよ」
改めて留めた鎖を牡蠣殻の脛椎の上にチャリリと落とすと、鬼鮫は徳利首を彼女の顎元まで引き上げた。
「兎に角、風呂に入りなさい。血生臭いですよ、あなた。着替えはあるのですか」
「袷と脚衣に替えはありません。洗います」
「食事と一緒に宿の者に頼んでおきます。薬は?」
「血止めは先生が仕度して下さいました」
「わかりました。早く行きなさい。努々入浴中に寝入らないように。溺れかけても私は死ぬ直前までは助けませんよ?あなたの溺れる様を高みから見物させて貰いますからね。いや、ああ、やっぱり寝入っていいですよ。少しはウサが晴れるかもしれませんしねえ、苦しんでいるあなたを見れば」
「そんなものを見てウサが晴れるとも思えませんがねえ・・・干柿さんは変わってらっしゃる・・・」
牡蠣殻は首元を押さえて立ち上がった。