第14章 変わったような、変わらぬような
鬼鮫に向き直って頭を下げる。
「指輪をまたありがとうございました」
言って笑った。あの何の捻りもない只の笑顔で、牡蠣殻は鬼鮫を見やる。
鬼鮫は足を組んで難しい顔をした。
「・・・ここでもうやりませんと言わせても、やらかすのがあなたなんですよねえ」
「同じような状況になったとき、都合よく目覚められる保証はありませんよ。でも目覚めているときは誓って外しません。干柿さんがそうしろと仰るのなら」
「味気ない物言いですねえ・・・」
鬼鮫は溜め息を吐いて追い払うように手を振った。
「それにしても、あなたはときどきどうにも手放しの顔で笑い過ぎる。あちこちでにやにやして歩くんじゃありませんよ?」
「失礼な。にやにやして歩いてなど・・・ん?してるか?してるかも・・・・え?ヤバイな・・・すいません。お風呂頂きます」
ブツブツ言いながら牡蠣殻は部屋付きの浴室に向かった。
それを見送って鬼鮫はフと真顔になった。
指輪を留めた手を見下ろし、拳を握るとそれを壁に叩き付ける。
鈍い音がして壁材が崩れ、基礎の梁と桁が覗いた。
「文句を言われますかねえ」
苦笑して呟くと、鬼鮫は鮫肌を壁に立て掛けてまた椅子に腰を下ろした。
血と慣れない煙草が匂う。
「まあいいでしょう。知らぬ間に下らぬ事をされるくらいなら、喚いている姿を見ている方がまだしもマシというもの。心なし手強げになっているなら尚の事」
独り言ちて鬼鮫は凄いような顔で笑った。
「今度という今度は逃がしませんよ」