第2章 母さん、ありがとう
家の中に入るとすごく苦しそうな母さんと何度も母の名を呼ぶ父さん。
「母さん…金平糖、美味しかったです。松寿丸も喜んでおりました。」
なんてことを言っているのだと自分でも思った。
でも、自然と言ってしまった。
母さんはせき込み、返事どころではなかったがこちらに笑顔を向けようとしてくれた。
それがとても嬉しくて、辛くて、悲しくて…
「八重…」
「ゲホッ、や…いちさッゴホっ…小弥太ッ…たえ…ッげほげほっ」
「無理しないで、八重!」
背中をさする妙さんと、手を握る父さんを見ながら俺は必死に涙を我慢するしかできなかった。
だんだんと力がなくなる母さんが俺を見ながら言葉が発されない口で必死に伝えるが、それが何を言っているのか…
俺には、わからなかった。
ーーーーーーーーーーーー
母さんは、死んでしまった。
病死
俺のいた世界では治っていたかもしれない…
それより、母さんが病気だったことに気づけなかったことがすごく悲しかった。
最後の言葉もわからなかった。
すごく悔しい。
あの後わんわん泣いて、気が付くと気を失っていたらしい。
きっと父さんが一番つらいのだから俺が頑張らないといけないよな。俺も、前の世界ならもう大人だしな。
俺は父さんが持っていた木刀を手に取り、よろよろしながらも庭に出る。
木刀というものは案外重い。
でも、これに慣れないとな…。そう思ってとりあえず一心不乱に振ってみる。
「うわぁっ!!」
案の定木刀の重みに耐えきれず尻もちをついてしまう。
目を開けてみると目の前には風魔がいて、俺を立たせてくれた。
「ありがとう…。どうしてここに…?」
そういうと俺を指さしてきた。
俺が会いたいといったから、か?
「…鍛錬…」
「母さんが、死んじゃって…。俺、強くならないとって…」
自分でもよくわからない説明を理解したらしく頷き、木刀を取る。
「…己で、よければ…」
「手伝ってくれんの!?」
コクリ、と頷く風魔に嬉しくなる。
「ありがとう!よろしくお願いします!!」
子供といえど、5歳の俺よりいくらか年上の風魔が、そう!あの風魔が手伝ってくれるらしい!
これから頑張るよ、母さん。