第1章 ある日の珊瑚礁(GS3 琉夏)
マスターに用事があるとかで瑛くんが昼間カウンターに立っていたある日、琉夏くんがひとりで来店した。
いつもあの子と一緒なのに、どうしたのかと珍しく思って聞くと、今日はあの子は友達と会うと出掛けてしまい自分もバイトがなく暇なのだと言う。
「暇つぶしか」
カップを拭きながら瑛くんがぶっきらぼうに応える。
「だって佐伯さんの淹れるコーヒーうまいんだもん」
怯むでもなく琉夏くんは笑顔で答えた。
「……仕方ないな。いつものか?」
琉夏くんの答えにうっかり瑛くんの頬が緩みかけたのを、わたしは見逃さなかった。
「それと、ホットケーキ!」
「わかってる」
優等生顔を知らない琉夏くんに瑛くんはなかなか遠慮がない。
素を出せる相手が限られているというのもあるんだろう。瑛くんは何だかんだ琉夏くんを可愛がっているように見える。
わたしにするみたいに厳しいことも言うし、チョップもする。
琉夏くんが巷で有名な不良だったと聞いたあとも変わらなくて。
琉夏くんも瑛くんに懐いてるように見える。
そんなふたりの様子にあの子は「ルカは嬉しいんだと思う」と言っていた。
ハリーのときもそうだったけど、男の子の友情っていまいちよくわからないや。
こんなこと口にしたら、どうせまた「そんなことない」とチョップが飛んでくるんだろうけど。
瑛くん特製のホットケーキと珊瑚礁ブレンドを味わっていた琉夏くんが、不意に口を開いた。
「佐伯さん、今度サーフィン教えて」
「ヤダ。面倒くさい」
「えー?そんなこと言わずに教えてよー」
「いやだ。俺は忙しいんだ」
教えて、いやだ、の問答につい口元が緩む。
瑛くんだってハリーにギターを習ってたんだから教えてあげればいいのに。