第4章 はじまりとおわり(GS2 古森)
そしてやってきた木曜日、古森くんは俯きがちに髪を触りながら、クラスメイトに声を掛け、教室を出ていった。
「古森の彼女って可愛いよなぁー」
正門が見える窓から外を見て、誰かが呟いた。きっと門のところには彼女が居るのだろう。
「いっこ上の"あの"先輩だろ?はね学のプリンスとか、ハリー先輩とも仲が良かったっていう…」
「しかもさぁ、一流大学通ってて、頭もいいんだよ」
「でもって、優しいんだろ?」
「うわ、完璧じゃねぇか!」
古森が羨ましいー、と誰かが叫ぶ。
その様子を見ていた女子が、同じように外を見て、前と同じように聞いた。
「えー、そんな人とどうやって付き合ったんだろ?」
わたしも気になる。
知りたいけど、知ってどうするのか。
でも、ただ純粋に知りたいと思った。
「あー…、あいつ年齢はいっこ上じゃん?こっちに転校してきて、ずっと不登校だったらしいんだけど、同じクラスだった彼女が不登校の古森を毎朝迎えに来てたんだと。古森が行かないって言っても、めげずに一年間、毎日」
古森くんが不登校だったなんて、知らなかった。
「そんで、古森は学校来るようになったけど、日数の関係で俺らの学年に入ったと。学年違うと結構会わねぇだろ。そのせいですれ違ったらしいけど、彼女の卒業式の日に古森が告って付き合いだしたんだって」
古森くんから、告白したんだ。
そんなのは、どうでもよくて。
もし、わたしが古森くんの彼女の立場だったら、転校してきたばかりのクラスメイトが不登校になったからって、それだけで一年間、休まずに毎朝通えただろうか。
きっと途中で面倒臭くなって止めていると思う。
古森くんの彼女は、どうして続けられたんだろう。
彼女も、古森くんに好意を持っていたからなのか。
それとも、底抜けに優しい人なのか。
そんな下世話なこと、わたしが考えても仕方ないんだけれど。
「あ、古森出て来た」
「うっわ、デレデレじゃねぇか」
窓から野次馬のごとく覗くクラスメイトに倣って、わたしも正門を見下ろす。
そこから見えた古森くんの彼女は、クラスメイトが言う通り、可愛くてきれいな人で。
古森くんは、その彼女に向かって、教室に居るときとは全然違う顔で笑っていた。
彼女も、古森くんに向かって、柔らかく笑む。
勝ち目なんてない。
率直に、そう思った。