第1章 離反ものがたり
「いつもお疲れ様です。今日は日々の疲れを癒してくださいね!」
「うん。ありがと」
「今回攻め込んだ所にも凌統、甘寧らしき姿はなかったようです。あやつらは何をしておるのか…」
「呂蒙殿、彼らの話はやめましょう。酒宴の席なのですから」
「あぁ、そうだな」
「ねぇ、陸遜、呂蒙」
「なんですか?」
「なんでしょう」
「あいつら捕まえたら連れて来いよ。す巻きにして赤兎馬で市中引き回しにしてやる」
「「!!!!」」
「それとも縛ったまま重しでも着けて沈めた方がいいか?」
「盃片手に瞳孔ガン開きで至極楽しそうに笑いながらそんな事言ってたんですよ」と陸遜はその時の様子を語る。
俺たちはと言えば、目を点にしたまま何も言えなかった。
「あれにはさすがの私も呂蒙殿も真っ青でしたよ。……って聞いてます?」
「いや…、ハハハ…」
す巻きで赤兎馬?捕縛したまま川に放る?
いや、それ、質悪いチンピラじゃん?
そら苦笑いしか出来ないでしょうよ。
「いやー……りっくん…、俺ら、戻れるもんなら戻ろうとか思ってたけど……」
「アイツそんなんならやっぱやめとこうかなー、なんて……」
「駄目です」
渇いた笑みを浮かべながら言ってみたけれど、その言葉はバシンと地面叩き落とされた。
「刹那殿にはもうお知らせしました。じき来られるでしょう。逃がしませんよ」
黒い笑みを携えて、陸遜は言い切った。
俺たちはと言えば、そんな陸遜に開いた口が塞がらないというか、言葉が出ないというか。
さっき言われた「赤兎馬」だとか「川流し」だとかが頭の隅で危険信号のようにチカチカと点滅していた。