第1章 離反ものがたり
「まったく…。あなたたちが出て行ってから大変だったんですからね!」
陸遜が溜め息混じりに吐き出す。
「アイツ、怒ってたか?」
「君主に向かってアイツとは何ですか!!」
それに反応してポツリと口を開いた甘寧に陸遜が噛み付いた。
この毒舌軍師様は君主さまを敬愛して止まない。
建国のため臣下を求めて各地を放浪していた君主さまに召し抱えられてから(ちなみに俺が一人目で、適当に傭兵稼業してるところを誘われた。次に敵に囲まれて暴れている甘寧に声を掛けて甘寧が仲間になって、通り掛かった山道で狼に襲われていた陸遜を助けて陸遜が仲間になった)、俺たち3人は陰となり陽となり君主さまを支えてきた。約一名、暴れ回っていただけの馬鹿も居るが。
陸遜は君主さまの為なら何でもする。絶対。
俺もするだろうけど、陸遜のように非情にはきっとなれない。
彼女には、いつも笑っていて欲しいから。
それが、主を愛してしまった俺と、主を敬って讃える陸遜の違いなのかもしれない。
「……表立って怒ってはいないですけど……、ものすごく荒れてましたよ」
「え゙」
続いて出た陸遜の言葉に、思考に耽っていた俺は素っ頓狂な声を出してしまった。
荒れてた?
いやいや、それはないだろ。陸遜ほどではないにしろ、多少なりとも非情なところはある、でも、めったに怒りを露わにしない、あの穏やかな君主さまが荒れてた??
まさか、と陸遜の表情を見ると、冗談にしては真面目な顔をしていて。
「噂で聞きませんでした?近隣の国を次々と侵略し、戦になれば先陣を切って敵中に切り込み、あっという間に拠点を沈める。長い髪を翻し戦場を駆るその戦ぶりはまさに"鬼人"」
身振り手振りを交えながら、陸遜はその様子を表現してみせた。
「普段はそんな素振りは見せませんが…、ふとした時に呟く『あの女地獄見せてやる』の恐ろしいこと!極めつけは酒の席で… 」