第1章 離反ものがたり
「で?理由は何です?理由!」
陸遜の声でハッと我に返る。
「お、俺は大きな戦があるっつわれて…」
「馬鹿ですか」
「なッ!!」
はははーと苦笑いながら馬鹿正直に答えた甘寧を陸遜はバッサリと切り捨てた。
うん、それは間違ってない。
アイツは俺の思った通り、「戦がある」の言葉に釣られたんだから。
「凌統殿は?」
「あ……」
俺は…、俺は…
あの女に言われる前からずっと思っていた。
俺じゃ、あの偉大な君主さまに釣り合わない。
強くなりたい。誰よりも強く。
君主さまの信頼を勝ち得て、戦場で肩を並べて戦って、そうしたら、俺はこの気持ちに正直になれると思った。
だから、裏切りとも取れる離反の誘いに乗って外へ出た。
何を考えてるんだと、恩を忘れたのかと、罵られるのは想定内。
自分を試すために、磨くために。
自信をもって、愛する人の隣に並ぶために。
だけど、君主さまに恋してるから離反しましたー、なんて、そんなこと馬鹿正直に言える訳ないっつうの。
やっとの事で捻り出した返答は、隣の馬鹿並に間の抜けた答えだった。
「つ…、強くなりたくて…?」
「馬鹿ですね」
「うっ…」
断言されてもおかしくはないんだけど、こう面と向かって言われると、結構クるな…。
この国きってのイケメン軍師は辛辣軍師でもある。(ついでに放火魔もプラスしておこう)
笑顔でおもいっきり毒を吐くもんだから、ダメージは半端ない。今風に言ったらマジパネェ。いや、お笑い風にハンパねぇな!でもいける。
とにかく、遠慮なく、しかも的確にグリグリと…、いや、それはもう意味もなく砂場に穴を掘る子供のように、工事現場のパワーショベルのように、ザックザック心をえぐる。
本人からしたら堪ったもんじゃない。
これで、何人の文官や武官がやられたか知れない。ある者はストレスで胃痙攣、ある者は血反吐を吐き、ある者は髪が抜けて、10円ハゲどころかツルッツルになったっけ…。
けど、多少悪気はあっても、あながち間違ってないから、言い返せないんだよなぁ。