第1章 離反ものがたり
その女は少し前に自ら仕官してきた奴で、君主さまの思想や貧富の区別なく国民に接する人柄に惹かれたと言っていた。
来るもの拒まずな君主さまは、もちろんその女を受け入れたのだけれども。
か弱い態で、そこそこ腕が立って、従順な振りをして内部情勢を探り、その女は機会を狙っていた訳だ。
そして虚をついて、臣下の武将に離反を持ち掛けた。
もちろん、話に乗りそうな馬鹿な奴を選んでいたのだが。
自分は間者で、我が君主はあなたのような猛者を欲していると。今より位が上がるし、給金も弾むと、甘言をちらつかせて。
女がそんな話を俺に持ち掛けたのは意外だった。
建国の時から陸遜、甘寧と共に彼女を支え、仮にも将軍と言う立場を頂いている俺が、戦好きで見た目からしてソレな甘寧はともかく、そんな馬鹿に見える筈はない。
ただ、女の俺を見る目が、俺の隠した気持ちを見透かしている気がした。
彼女と…、肩を並べるくらい、強くなりたくはありませんか?
そう言われた俺の肩は跳ねた。
なんで、どうして、誰にもばれないようにひた隠ししてきた筈の俺の気持ちを言い当てられたような気がして。
よく、考えてくださいね。
そう残し、女はその場を去った。
残された俺はと言えば、さっきの言葉がぐるぐると頭の中を回って、何も考えられなくなっていた。
今思えば、それがあの女の手だったのかもしれない。