第4章 歯車を狂わす者
今日も疲れたなぁ……としみじみ思いながら、荷物を取りに教室へ足を踏み入れた。
いつも授業が終わると、部活やら帰宅やらでみんなはそそくさと教室から出て行く。当然今も誰もいないと思っていた。
……否、居た。
『エレン……?』
彼は僕の席で今朝のように机に顔を伏せていた。
「……おせーよ。なにしてたんだ」
エレンは顔を上げることなく言った。
いつも一緒に帰る約束をしてるわけではないから、エレンはもうとっくに帰っていると思ったんだけど、どうやら違ったみたいだ。
ちなみにミカサとアルミンは、いつも気がつくと既にいない。
待っててくれたのかな……?ちょっと嬉しいかも!
『ごめんね!ちょっと立ち話してたんだ。あ、それとエレンに言いたいことが……』
言葉は、突然音を上げて立ち上がったエレンによって遮断された。
「誰と立ち話してた、答えろ」
エレンがとても怖い顔で近づいて来るので、反射的に僕も一歩ずつ後ろへ下がってしまう。
え、え、なんか、怒ってる……!?
繰り返していくうちにとうとう壁に背中が当たった。
ギクリとしてエレンを見上げると、大きな目で睨みつけられる。
……なんで怒ってるんだろう。
エレンは、僕の顔の横に手をついた。
『お、落ちついてエレン!僕は君の彼女に……』
「彼女……?いねぇよそんな奴。お前、まさか俺に彼女がいるなんて噂信じてんのか?」
なんとか機嫌を直そうと言葉を発するが、逆に火に油を注いでしまったみたい。
どどど、どうしよう……!
『え、でも……』
「へー。リオ、お前は俺が何も言った事より他人の言葉を信じるんだな」
呆れるというよりも、軽蔑されているように聞こえて、僕は肩を震わせた。
違う、そういうわけじゃない……!!
「もういい、どうでもよくなった。お前には俺の気持ちなんて一生分かんねぇよ!」
『ごめん、エレっーー』
僕が謝ろうと口を開いたとき、エレンの顔が近づいて……キス、された。
驚いて固まる僕。エレンの表情は前髪に隠されて見えなかった。
エレンは触れるだけのキスをすると、近くに置いてあった自分の荷物を持って出て行こうとするが、扉の前で立ち止まりリオを見据えると、"明日から俺に関わるな"と言って去って行った。
残された僕はキスされた唇に手を当てて唖然と立ち尽くしていた。