第7章 夜陰の逃避行~思わぬ酔宴
わけが分からずに固まる彼に向けて、○○は背伸びをしながら山姥切の頭へ手を伸ばし…触れたそこは彼の髪…ならぬ布だったが。
ぽふぽふ、とまるで撫でるように○○は掌を動かす。
「……………」
この…主、いや、少女は何をしているのか。
山姥切は釈然と…というより、少女の行動が理解できずに半ば呆然としながら、触れる掌に合わせて布がずり落ちる感覚に、はっ、と我に返る。
「…っ、俺にさわ……」
己を覆う布を戻しながら、これ以上自分に触れるな、ときつい口調で告げるはずの山姥切は、しかしそこで、自分を真っ直ぐに見上げている少女と、不覚にも、またしても目が合ってしまった。
途端、山姥切は反射的に目を伏せ掛け…その耳朶に、○○の舌足らずな声(酔っ払いなので)が響いた。
「いたくして、ごめんね」
そう言って、○○は山姥切の被る布の端を、きゅ、と握る。
常であれば、そんなことをされようものなら払い除けるだろう山姥切をして、今は何故か、できなくて。
固まっている間に、
「ごめんね」
もう一度、少女の声が落ちて。
それから○○は、動かない山姥切から、静かに離れていく。
そうして距離が開くのを山姥切がぼんやり見つめていると、目の前で、○○が笑った。
「いたいの、やだもんね」
痛み、といっても、山姥切は傷を負っていない。
なのに『痛い』と表現する○○には、山姥切の何かが見えたのだろうか。
「おい……」
つい、山姥切は○○に向けて声を投げた。
それで、何をどうしようとか、何も思わずに、気づいたら声が出ていた…のだが。
今までの流れで、うっかり失念していたが。
「おにぎりたべる?」
「………は?」
脈絡なく飛び出した台詞に、そうだった…と思い出した。
そう、○○は酔っ払い継続中だ。
塩気もない、具も何もない、ただご飯を握ったそれを、○○が山姥切に差し出してくる。
そうして○○自身も、今度は噎せることなく頬張れば、山姥切も…自分でもよく分からないまま、つい(うっかり?)それを受け取ってしまっていた。