第7章 夜陰の逃避行~思わぬ酔宴
だからこその、それは。
「きれー……」
素直で率直な少女の言葉、だったのだけれど。
「…っ、綺麗なんて、言うなっ」
もう、酔ってるとか、そうじゃないとかなんて、どうでも良い。
○○の放った言葉に山姥切は、ぎり、と唇を噛んだ。
「写しなんかに、そんなことを言うな!」
彼の中に燻り続ける、目を反らせないものが噴出する。
どうせ自分は写しだ。
『写し』とは、『本物』ではない。
でも…けれど。
(俺は、俺なのに!)
自らで自らを否定し、卑下するようにしながら、その実、自分は自分なのだと叫ぶ心も確かにある。
相反するジレンマに、山姥切は加減を忘れて○○を振り払った。
瞬間、
「ひゃっ!?」
○○の身体が真後ろに傾く。
そのまま床に激突する、と思われた身体は、しかし、
「っと、平気か、大将?」
「ん?…うん」
前田と共に○○の傍近くに腰を下ろしていた薬研に支えられて事なきを得、覗き込まれるように無事を確かめられると、少女は酔いつつも神妙な顔で頷いた。
その様子に、それまで堪えに堪えて沈黙を守っていた蜂須賀が爆発した。
「山姥切、貴様!」
「何だ」
途端に剣呑な空気が辺りを包み込む。
一触即発と化したそこで、○○は薬研の腕から起き上がり様。
「やまんばさん!」
「………!?」
そうだ、思い出した、と、○○は笑顔を振りまく(またしても一部違っているような、いないようなだが)。
そうして、自分を振り払ったはずの男の元へ、とてとてとて…と少女が無防備そのもので歩み寄れば、睨み合う二人の緊迫した空気も霧散するしかない。
尚も山姥切をねめつけつつも、蜂須賀がやや後ろへと下がる。
すると、その隙間を埋めるように○○が近づき、
「いたかった?」
「……は?」
突き飛ばしたのは山姥切。
突き飛ばされたのは…○○。
薬研が受け止めたとはいえ、『痛かったか?』と問われるのは本来、○○こそが似つかわしいはずだ。
なのに、その○○が、山姥切へと痛みを問うていた。