第7章 夜陰の逃避行~思わぬ酔宴
「かえったら、らめっ」
「……俺の勝手だ…」
『勝手だろう』と続けるはずが、だがしかし。
「あっ!」
閃いた、とばかりの○○の声に、思い切り出鼻を挫かれ不発に終わり、あまつ。
「…っ、おいっ」
少女の両手で掴まれた腕が、ぐいぐい、と引っ張られる。
本気になればこの程度、幾らでも振り解けるが、どうにもできないのは、やはり相手が酔っているからか…それとも……。
(くそ…っ。この酔っ払い!)
そう思うのに、山姥切は○○を力づくで突き放すことができなくて。
(うんざりだ……)
そう心で呟いて、自分は不機嫌なんだぞ、と訴えるように○○を見下ろした…のだが、そこには待っていたように○○が目を輝かせていた。
「思い出した!」
「は?」
にこにこと緩みっぱなしの少女の笑顔に、またも出鼻を挫かれた。
何を思い出したというのか。
そういえば、前田だの薬研だのと、この酔っ払いは先刻から、相手の名前を言い当てては嬉しそうにしているが。
(俺の名前も思い出したってことか……)
つまりそういうことか、と、ぼんやり思う山姥切を前に、しかし○○はすぐには声を上げず、何故か、じぃぃぃぃ、と食い入るように彼を見つめている。
その視線が、山姥切には何とも居心地が悪い。
元々、写しである己を嫌い、卑下する傾向のある彼である。
他者の視線に晒されるのは、最も苦手とするところだ。
なのに。
「……………」
相手は酔っ払いだ、と思っても、限度というものがある。
山姥切は低い声を上げた。
「やめろ」
「?」
山姥切の声に、○○がきょと、瞬く。
が、目は反らさない。
それが山姥切には嫌で。
「だから…俺を見……っ」
そう、言いかけたのに。
「あおいめ、なんだね?」
「っ!?」
「かみのけ…きらきらしてる」
折りしも差し込んだ月光を受けて、布からはみ出した彼の前髪が、微光を帯びたように○○には見えた。