第7章 夜陰の逃避行~思わぬ酔宴
ちょっとおずおずとしながら、でも思い切って、前田は出会ってすぐには言えなかったことを口にしてみる。
すると…まあ、この場合、言わずもがなだが。
「うん!よろしくね!」
思いきり単純明快な回答(笑顔付き)が返ってきて、前田も吊られて笑顔を見せた。
「は、はい!よろしくお願いします!」
本来、人見知りであるはずの少女は、その出会いから大倶利伽羅と山姥切を『苦手』な相手として認識してしまっている。
にも関わらず、○○は大倶利伽羅に近づき指さしながら『からくり』と言い放ち(もちろん笑顔全開で)、そうして…今。
「んーと、えーっと」
ぺたぺたぺた、と歩み寄った先には、いつ如何なるときでも布を被ることを忘れない山姥切が佇んでいる。
顕現直後から無表情な彼をして、今、その面にはやや戸惑いの色が見て取れた。
「な、なんだ」
大倶利伽羅の眼光も、攻撃的な声色さえさらりと受け流しておきながら、酔っぱらった少女に、果たしてどう対すべきなのか、山姥切がそんな逡巡の中にあるなど、誰が知るだろう。
これが…目の前の少女が素面であれば、何と言うことはない、放っておけとこの場を去るなり、適当に振り払うなりすれば済むはず…と考えて、山姥切は瞬いた。
(そうだ。何を考える必要がある)
相手が素面だろうが、酔っていようが、こちらの与り知るところではない。
態度を変える必要など、あるものか。
山姥切は小さく頷いて、踵を返そうとした…のだが……。
「っ!?」
腕に…何かが、ぶら下がっている。
もとい、○○が山姥切の腕を両手で引っ張っている。
逃亡…失敗、らしい。
「……………」
むっつりと押し黙る山姥切の面は、お世辞にも友好的ではない。
常の○○なら、それだけで顔色を変えて後退ったことだろう。
だが、今は素面ではない。
しつこいようだが、○○は酔っ払いだ。
笑い上戸で、ご機嫌も絶好調な今の少女に、怖いものなどない。
人見知り?それって何のこと?と言わんばかりの無敵状態だ。