第7章 夜陰の逃避行~思わぬ酔宴
「大将…随分とご機嫌だな?」
咎めるでなく、けれど微苦笑を浮かべながら、薬研は○○の頭をぽんぽん、と叩いた。
と、それが○○にはどうやら嬉しかったらしい。
にこにこしながら、至近から薬研の顔を覗き込み。
「んふふー。やげんはね、ちゃんとね、おぼえたのー」
「うん?」
不覚にも一瞬、どきり、としてしまう薬研をよそに、○○はよたよたと身体を起こした。
「はちすかさんでしょ。あと…からくりさんもー」
「あー…そこ、ちーっと違うけどな」
蜂須賀はともかく、その後がちょっと…かなり違っているのだが。
酔っ払いには通じねえか、と苦笑いしつつ、薬研は覚束ない足取りの○○を支えるように手を伸ばしたが。
「あとはね、まえだ…さん?」
だったよね?と、これまた笑顔全開で前田へと近づく少女は、俗に言う笑い上戸というやつだろうか。
まあ、せっかく飲むなら、楽しいに越したことはないが……。
(こいつは楽しい、って言って良いんだか、なあ)
薬研的には、まあ、楽しい(面白い)が。
からくり…もとい、大倶利伽羅には恐らく面白くはないだろう。
しかも、当の○○の関心は前田に移っていて、大倶利伽羅は既に眼中にないようだ。
あーあ、と微苦笑混じりの息を吐く薬研の視界の中では、○○が嬉しそうに前田に話しかけていた。
酔っ払いの思考や行動原理など考えても意味はないかもしれないが、今の○○のテーマ(?)はどうやら刀剣男士達の名前を言い当てること…のようだ。
そして、そのターゲットは現在前田であって。
顕現直後とは違う、終始にこにこしっぱなしの○○に、前田は嬉しいやら、近すぎて恥ずかしいやら。
けれど嬉しさが勝った前田は、名を呼ばれて破顔した。
「はい。前田です。前田…とお呼びいただけたら、嬉しいです」
『さん』なんて自分には不要だ、と訴えた相手は酔っ払いだが、果たしてその辺りは理解したのかしないのか。
「前田?」
「はい!」
「うん、わかった!」
前田が喋れば、にぱ、と目の前で笑顔の華が咲く。
前田は、それが更に嬉しくて。
「あ、あの、僕も…あの、主君、って呼んでも、良いですか?」