第7章 夜陰の逃避行~思わぬ酔宴
死活問題が先で、今の今までそれどころではなかったが、この声の主は誰なのか?
おずおずと目を向ければ、そこには…暗くてはっきりとは見えないが、それでも、闇に慣れた目にぼんやり映ったのは。
(この…ひと……)
それは…今日の鍛刀で顕現した刀剣男士の一人……。
名前は…確か……。
「たし、か……」
考える。
○○は一生懸命考えるのだが、上手く出てこないのは…どうしてだろうか。
「あれ……?」
しかも何だか、顔が熱い…というか、身体もぽかぽかするというか……?
「ぅ~~っ?」
真っ赤な頬を押さえて唸る少女。
いつの間にやら酔っ払いが一人、出来上がっていた。
「主!」
○○が何かを飲んでいる(飲まされている?)のは蜂須賀にも分かっていたが、それを与えているのが仲間であることに一応の安堵を得たことで、蜂須賀の乱入が遅れた。
その手にあった上着を取り落したことすら気づけないほどに、主の状況を把握した蜂須賀は焦っていた。
何を飲まされたかなど、もはや考えるべくもない。
真っ赤に熟れた頬に、近づけば更に潤んだ瞳がそこにあり、挙句、
「あ、はちすかさんら~~~」
呂律が回っていない…とくれば、もう……。
「大倶利伽羅。貴様、主に酒など!」
「ちっ」
うるさい奴が来た、と、彼…大倶利伽羅は面倒そうに舌打ちした。
ただし、大倶利伽羅の名誉の為に付け加えておくと、彼は悪意をもって○○に酒を飲ませたわけではない。
本来、眠りも食も必要とはしない刀剣男士だが、既に幾度かに渡る顕現によって、大倶利伽羅は酒の味というものを知り、良く言えば、嗜むことを覚えていた。
だが顕現した今日、この本丸の食卓には酒が供されることはなく、かといって眠る気にもなれなかった彼が、口寂しさに、何気なく厨に向かったのは、実は○○よりも先だった。
厨の中で酒が貯蔵されている場所など、大体何処も似たようなものだ。
果たして大倶利伽羅の予測通り、見つけたそれ(しかも樽酒)を彼は柄杓で軽く飲み始めた。
と、ほどなく現れたのが、○○である。