第7章 夜陰の逃避行~思わぬ酔宴
『かも』ではなく、蜂須賀にはしっかりバレて尾行もされているのだが、○○はそんなことは知らない。
帰ったら部屋で怒られるだろうな、くらいに思っている少女は、まだまだ甘かった。
厨の戸の前には、既に敵…ならぬ、蜂須賀が○○の様子を伺うようにしていて。
彼の姿が○○の前へと現れるのは時間の問題…という、その前に、蜂須賀さえも予想外のことが起きた。
かたんっ!
「っ!?」
暗がりの中から、物音がする。
もちろん、○○が立てたものではない(蜂須賀でもない)。
だとすれば……。
「な、なに……?」
今のは、何の音だろうか。
風が何かを揺らした音か、と思おうとするが、外は至極穏やかで、物音を立てるほどの風など吹いてはいない。
それなのに。
かたっ。
「ひっ」
ぱしゃ……っ。
今度は水音らしきものまでが聞こえてきて。
怖さの余り悲鳴も出ず、○○の喉が、ひゅ、と情けない音を上げた、途端、
「ぬぐ、んんっ」
うっかり忘れていたが、○○は、おにぎりを絶賛頬張り中だったりする。
そこへ持ってきて声にならないとはいえ、妙な呼吸をしたものだから。
「ぐっ…ぅぐっ」
おにぎりを喉に詰まらせて…なんて、とてもじゃないが洒落にならない。
むぐぐっ、と圧迫される呼吸に、しかし笑い事ではなく、○○は正に絶体絶命状態だ。
「!? 主?」
一体何事か、ともはや『見守る』に徹しきれなくなった蜂須賀が飛び込んでくる…よりも、僅かに早く。
「飲め」
「んっ!?」
何かが押しつけられて、これは何だろう?と思うより前に。
「そら、早くしろ。喉につかえてんだろうが?」
ちゃぷ、と液体の気配を感じるが早いか、○○はそれを受け入れた。
「んんっ、んく……っ」
頭上から響いた、低く、何処か不機嫌そうな声……。
(誰……?)
それが誰のものか判別できないまま、○○は息苦しさから逃れるべく、与えられたそれに、やがて自ら手を添え、思い切り飲み干していく。
○○が呼吸困難から解放される頃には、与えられた器の液体は綺麗に消えていて。
「ふ…はっ」
「ふん、なかなか良い飲みっぷりだな、あんた」
「ぇ?…っ!」
再び聞こえた声に、○○は今度こそしっかりと目を向けた。