第7章 夜陰の逃避行~思わぬ酔宴
何かの残り物でも何でも良いから…と、厨の戸をそっと、そーっと、きぃぃ、と音が立ってしまうのにさえ、
「しー…っ」
なんて思わず訴えてしまいながら、そろり、と、細く開いた隙間から、○○は中へと滑り込む。
果たして、そこに○○の望むものがあったか…というと……。
「…………」
じぃぃぃぃぃ、と、沈黙を伴に、食い入るように何かありそうな場所を、言い方は悪いが物色する、と。
「あ」
ふと釘付けになったそこには、櫃があった。
そういえば、残ったご飯は本丸システム(目下、本丸の家事全般はシステムが担っている)が櫃に残しておくことがあるとかないとか、そんなことを聞いたことがある。
ということは、そこに○○の欲しいものがある…かもしれない。
夜の闇…灯りもない厨は窓から差し込む月明かりを除けば、薄い闇に覆われるばかりで、常の○○なら、そんな場所に一人忍び込むなど、絶対にありえない、というより、できなかったに違いない。
何しろ、○○は、なかなかに怖がりなところがあったりする。
無論、暗がりなんてもってのほかだ。
にも拘らず、薄暗い廊下を一人で進み、更に暗い厨に入る。
空腹は何にも勝る…かは不明だが、○○は見つけた櫃に目を輝かせ、飛びつくように蓋を開けて。
「あったー!」
本丸に来てからこちら、こんなに嬉しかったのは初めてではないかというほどに、○○は思わず声を上げ…しまった、と慌てて口を噤んだ。
見れば、櫃の中の残飯はすっかり冷えているかと思いきや、そこは見かけはレトロでも最新設備満載な本丸システムというべきか、しっかり保温の効いたそれは、ほこほこと湯気をのぼらせている。
(美味しそう……)
ご飯を前に、美味しそう…なんて、久しく忘れていた気がする。
○○は水場で手を濡らすと、櫃に手を差し入れ、そっと握り始めた。
初めは一つで十分、と思ったが。
「………」
無言の内に、少女は二つ目に取り掛かる。
出来れば塩も付けたかったし、何か具や海苔が欲しい、なんてことも頭に浮かぶが、ここで更にあちこち物色して動き回るのはさすがによろしくないだろう。
(誰かに気づかれちゃうかもしれないし……)